第7話 回想2

 ユニを捜索するにあたって目立つ行為は避けたかった。だから、フレッドはペーパーテストで満点を取れたにも関わらず意図して点数を下げて、中間辺りの点数を狙った。


 狙い通り下過ぎず、上過ぎずの点数を取ったフレッドだったが、一つ誤算があった。それはテストの評価が絶対評価ではなく相対評価だったことだ。


 たまたまフレッドが入学した年のテスト結果は出来が良く、例年であれば寮の個室が与えられる程度の点数だったが、結果は相部屋だった。


「よっす! 俺はフレッド・デューイ。フレッドって呼んでくれよな!」


 不満はあったが、相方と上手くやる自信はあった。元々大所帯の孤児院育ちなのだ。外面を取り繕う術は身につけていた。


「んー自信っていうか、俺はロードオブカナンで優勝しないといけないからなあ。まずは学園から成績優秀者に選ばれるように頑張るつもりではあるよ」


 適当に出した話題に同室となったエルはこんなことを言った。バカな野郎だ。相部屋になるような人間が無理に決まってるだろ、そう思った。


「俺かあ? 俺はお前みたいな目標があって入ったわけじゃねえよ。卒業したらいいところ入れるだろうし、そうしたらおふくろに楽させてやれるだろうしな。俺んち母子家庭でさ、親父がロクでなしだったんだよ」


 全部嘘だった。どうせそこまで深い仲になるわけでもない。長くて3年程度の付き合いだ。そう思い適当に口から出した言葉をエルは信じ込んだ。あまつさえ、「立派な目標」だとまで言った。


 ふと、こいつはペーパーはダメでも実技は優秀なのだろうかと思い、かまをかけることにした。


「新入生狩りにあっちまってさ。黒髪のすげー美人な先輩だからフラフラついていっちまったんだよ。そのせいで、手元に残った単位は1だけなんだよ」


 これもほとんどが嘘だった。ユニから事前に新入生狩りのことを教わっていたフレッドは逆に弱い上級生から単位を奪っていた。


 もっとも、調子に乗っていたところにクロエに挑まれ、手も足も出ずに負けて少々単位を奪われていたが、間違っても残単位1などではない。


「お前もかよ。実は俺も新入生狩りにあってさ。残り1単位」


 予想の斜め上の回答だった。言っていることに嘘がなければ退学崖っぷちの状況だ。


(おめでたい野郎だ。よくそれでカナン戦優勝とか言えたもんだな)


 相部屋が個室になる日は近い。そう思ったフレッドは少々の憐れみからエルの気のいい友人として振る舞ってやることにした。


 それからすぐ、エルは1単位しかないという状況で、自らの退学まで賭けてサーシャのために単位争奪戦を行うことを決めた。


(他人のためによくそこまで出来るな。まあ失敗しても痛手はないし、ちょっと手伝ってやるか)


 どうせ負けるだろうと思いつつも、映画でも見るかのような感覚でエルとサーシャの単位争奪戦を見ていた。


 しかし、結果は二人の圧勝。圧倒的に不利に思われた状況をエルはひっくり返した。この瞬間、フレッドの中でのエルの評価は変わった。


(バカだけど、ただのバカじゃないのかもしれない)


 それからしばらくして、今度は絶対に勝ち目のない相手にエルは喧嘩を売った。


 ワイルドバンチといえば、手紙の中でもユニが口酸っぱくして関わるなと言っていた相手だ。おまけにただのワイルドバンチではなく、幹部相手だ。


 今度こそエルは人助けでバカを見る。そう思ったフレッドだったが、この頃になるとなんだか彼らに親近感を覚え始めていた。それに、美人を泣かせた相手の鼻っ柱を折ってやってほしいという思いも少なからずあった。


 単位が足りないというエルに、打算抜きで単位を分け与えた。入学時点では考えられない行動だった。とはいえ、退学は賭けられなかったので皆に黙って、こっそりと少しだけ単位を残していたが。


 我ながらどうかしている。こんなことをしていれば否が応にでも目立ってしまう。それは、ユニを探すうえでマイナスにしかならない行動だ。だが、なぜかやめられない。彼に惹かれている自分がいるのを自覚した。


 果たして絶望的なオッズだったが、エルは賭けに勝った。この瞬間、フレッドの中でのエルは何か大きなことをやってくれそうな人間へと評価が変わった。


 この集団についていけば、影も形も掴めないユニの消息の欠片を何か掴めるのではないか、そんなことすら思わせた。それと同時に、隠し事をしていることに罪悪感を抱いた。


 打算に満ち溢れたこんな自分の正体がバレてしまった時、それでも彼らは自分のことを友人だと言ってくれるだろうか? 

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1単位から始める魔法学園生活 山城京(yamasiro kei) @yamasiro

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