第二章 生徒会動乱編
第1話 いつからライバルに?
ワイルドバンチと戦ってからここ数日、俺達の元には連日学生が集まっていた。彼らは口々に「俺を、私を、ぜひクランに入会させてくれ」と言い、聞いてもいないのに自己アピールを始める。どうやら彼らは俺達6人をクランか何かと勘違いしているらしい。
一回生が上級生を倒すだけでも話題になるのに、俺達はワイルドバンチの幹部を倒してしまったものだからまあ人が群がる。
特に、彼らの間で俺はクランリーダーということになっているらしく、連日心休まる日を送れずにいた。
だから、今日みたいに穏やかにフレッドと二人でショコラのテラス席で談笑できる日は貴重だった。とはいえ話題はやはりこうなってしまう。
「なんだってこう声かけてくる人が多いもんかね……」
「諦めるしかないだろ。エルとアイシャのバトルを見てた人も多いし、新入生狩りに遭った連中からしたら希望の星だ。でもまあ、俺は感謝してるぜ? お前のおかげで声かけてくれる女の子が増えたからな」
「どうせクランに入れてくださいだろ」
「悲しいことにそうなのよね……」
「部室もイオナ先輩の魔導具求めてくる人でいっぱいだからな」
「おちおち話しもできない感じだもんなあ。人のいないあの頃が懐かしいぜ」
「懐かしむほどの期間はなかったけどな」
あの単位争奪戦で俺達が使用した魔導具がイオナ先輩作だとわかった途端、部室はそれを求める人で連日大盛況だ。先輩は嬉しい悲鳴をあげていたけど、俺達としては居場所の一つを失ったみたいで少し寂しい。
「しかもまあなんだ、ウチのメンツは美人揃いだからな。それ目当てで声かけてくる男連中の多いこと多いこと。お前知ってっか? あの日以降クロエ先輩めちゃくちゃ告白されてっからな」
クロエ先輩の名前を出されると、どうしてもあの夜の一件を思い出してしまう。返事を求められなかったとはいえ、いつかはきちんとした答えを出さなくちゃいけない。これもまた俺の頭を悩ませる問題の一つだった。とはいえ、
「あの人なら元から引く手あまただろ」
「それがな、これまで人を寄せ付けないような雰囲気をまとってたからあんま告白された経験はなかったんだと。今回バカスカ告白されるもんだから本人は辟易してたぜ」
「なんでまた急に」
「お前に見せる笑顔のおかげで勘違いした連中が現れだしたのよ」
「ふーん。結構笑顔見せてたと思うけどなあ」
「そりゃお前の前だけだ」
「そんなことないだろ」
「へいへいでたでた。鈍感はその辺にしとけ。でだ、サーシャちゃんにも悪い虫がたくさん寄ってくるもんだからアイシャちゃんに頼まれた俺は彼女の露払いよ。アイシャちゃんはなぜか女子に告白されまくっててすげー微妙な顔してたぜ」
思い返せばアイシャは昔から男女問わず告白されてたけど、比率でいえば女子の方が多かった気がする。そのたびに微妙な顔をしていたから、たぶん今回も同じ表情をしているんだろう。
「それはいいがなんでお前はそんなに詳しいんだ」
「情報収集は俺の趣味よ」
「そういやそうだったな。イオナ先輩は? あの人も大概美人だけど」
「イオナ先輩はしたたかだぞー。もちろん告白はされるんだが、そうした連中に魔導具買ってくれたら考えてあげるよって言って荒稼ぎしてる。おかげで今あの人の懐はちょっとしたバブルだ。単位もコインもガッポガポよ」
「……あの人らしいがその内刺されても知らんぞ」
「そうなりそうな予感がしたら、エルのことを彼氏ってことにして矛先をそっちに向けるんだとさ」
なんてことを考えるんだ。相変わらずあの人の頭はクレイジーだ。
「彼氏役はお前がやれよ。そういうの得意だろ?」
「……俺だってそう願い出たさ……だけどな、『フレッドくんじゃ力不足だよー』だとさ。すげーいい笑顔で言われちゃってさ、俺、なんも言い返せなかったよ……」
俺はなんて声をかけていいかわからず、結局サンドイッチをかじることでお茶を濁した。
「そういやフレッド、なんか俺に見せたいものがあるとか言ってなかったか?」
「そうだった! いやー実はさ、今ウチの美人どころをモデルにした絵を書いてるんだが、お前にも見てほしいんだよ。今度俺が所属してる前衛美術部で品評会があってさ、どれ出すか迷ってるんだ」
そう言ってフレッドはカバンからスケッチブックを取り出しテーブルに置いた。
「……お前これ本人に許可とってるのか?」
ペラペラとスケッチブックをめくって見るも、とても言葉にできないほどのエロチシズムに満ちたものばかりだった。俺の知ってる彼女達があられもない姿でセクシーなポーズをとっている。しかしも、多少胸などは強調されているが、本人と瓜二つレベルなものだからよりたちが悪い。
「むしろお前はとれると思うのか? 当然黙ってるに決まってるだろ。唯一イオナ先輩にだけはバレてしまったけど、笑って許してくれたぜ」
イオナ先輩……それでいいのか。俺はあなたの頭の中を覗いてみたいよ。
「まあ俺から言えることは一つだ。バレた時の言い訳はしっかり用意しとけよ。特にアイシャにバレようものならただでは済まんぞ。お前もアレは喰らいたくないだろ」
俺の言葉にさしものフレッドもゴクリと喉を鳴らした。
「そ、そうだな。アイシャちゃんのだけは処分しとこーかなー?」
「俺の経験上一人だけのけ者にしても結末は同じだ」
「八方塞がりじゃねえか!」
「モデルにウチの美人どころを使うのはやめろってことだ」
話にオチがついたところで、コーヒーを優雅に楽しんでいると、向こうから見覚えのある姿がこちらに向かってくるのが見えた。
「見つけたぞ! エル・グリント!」
いきなり俺達の前に現れた彼は、ビシッという擬音が聞こえてきそうなほどに勢いよく俺を指差しそう言った。テラス席に座る他の客が何事かとこちらを見ている。
「あらー? こいつ誰だっけ? ふす、ふせ、フリコだ!」
「フレッド、名前ぐらい覚えててやれよ……」
「なんで少しずつ離れていくんだ! フスコだ! ベルナルド・フスコだ! 入学間もないお前に負けたフスコ! 忘れたとは言わせんぞ! エル・グリント!」
「いや、忘れたとは言いませんけど何か用ですか?」
俺の記憶ではそんな親の仇のように見られることをした覚えはないんだが……。純情を弄んだフレッド相手ならともかく。
「まずはこの間の戦い、見事だったと褒めてやろう。ワイルドバンチ相手によくやった」
「はあ、どうも……」
俺としてはあの戦いのことをあまり口に出さないでほしいんだけどな。自分自身課題の残る結果だったと思ってるし、まったく納得していないから。
「そこで、お前のライバルである俺が戦いを挑もうと言うのだ!」
「いや、あなたとライバルになった覚えはないんですけど……」
リラックスタイムにいきなり現れてそんなことを言われても困る。
「うるさい! お前と俺はライバルなのだ! お前に負けたあの日から、俺はロストリグレットに入会し、己を鍛え直したんだ! いいから勝負を受けろ!」
「いやですよ。第一ここ学生街ですし」
「~~ッ! 単位争奪戦だ! アースゴーレム!」
フスコは合意もしていないのにいきなりゴーレムを作成する準備に入った。完全にやる気だ。
フスコが地面に魔導具を突き刺すと、そこを中心に石畳が盛り上がって2メートルほどのアースゴーレムが形成されていく。
最悪だ。避けようがない。やる気はないが相手になるしかない。
「フレッド」
「あいよ。俺ちゃんは避難指示ね~」
一瞬のアイコンタクトでそれぞれの役割が決定した。俺はフスコの足止め、フレッドは周囲の避難指示と安全確保。時間さえ稼げば自治会なり生徒会なりが飛んでくるはずだ。
「見ろ! 俺はゴーレムを2体も操作できるようになったぞ!」
言う通り、2メートルと1メートル少々のアースゴーレムが目の前に立ちはだかっている。いっちょ前にポーズをとっているが、それを見る俺の反応はといえば、
「はあ……」
普通なら恐れおののくところなのかもしれないが、グレイやロベッタと戦った俺からすると、ただの置物にしか思えなかった。
しかも、2体操作できるようになったといったところで、そもそもの操作技術が成長していない。以前と変わらず単調な動きをするだけだから、ひょいひょい避けられる。
「先輩、もうやめましょうよ。ここ学生街ですよ? 生徒会飛んできますよ?」
「はっはっは! ビビるのもしょうがないな! なんていっても2体だからな2体!」
なにをどう見れば俺がビビってると思えるのか不思議でならない。相手にするのも馬鹿らしいけど不用意に暴れられて周辺を破壊されたらたまったものじゃない。片付けるか。
「はい、アッシュ」
どう見ても対策をしてきたようには思えなかったので、この前と同じように足首にアッシュを放ち灰にした。後はもう焼き直しだ。バランスを崩したアースゴーレムは何をするでもなく地に伏した。
「なあ! 卑怯だぞ!」
「卑怯も何も対策してこない方が悪い。もういいでしょ? 諦めましょうよ」
「えーいうるさーい! 今度は剣で勝負だ!」
細身の剣型魔導具を抜いたフスコは勢いよく俺に斬りかかってきた。が、やはりグレイほどの重さもなければロベッタほどの速さもない。俺はあくびを噛み殺しながら軽くいなし、フスコに足払いをした。
倒れたフスコの眼前に剣先を向ける。
「まだやります?」
「かかったな! ファイヤボム!」
どうやらここまでフスコの演技だったらしい。倒れたかに見えた彼は俺に向かって魔法を放ってきた。が、やはり何もかもが遅い。イオナ先輩お手製の魔導具で切り払う。
「まだ何かあるなら、どうぞ」
万策尽きたらしい。今度こそフスコは悔しそうな顔をするだけに留まった。
これで終わりか、と思った矢先、生徒会の腕章をつけた女学生がこちらに走ってくるのが見えた。ちょうどいいタイミングだ。
東国の刀と呼ばれる魔導具を手にした彼女は、長い黒髪を一本の白いリボンでポニーテールにまとめ上げていた。すり足のような独特の移動方法で身体の揺れを最小限に押さえている。走っているのに、あれだけの毛束があまり動かないというのも驚きだった。
「そこまでだ!」
「いやーよかっ――」
完全に油断していた。味方かと思われた彼女の刀の柄による一撃をモロに食らった俺の意識は遠いどこかへ消えてしまった。
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