第12話 スキル購入

「参ったな。まさかクランに入るのに入会条件があるなんて知らなかった」

 いろいろなクランに声をかけてみたが、どこも入会の条件に単位を求めてきた。なんでも、下級生に有益な情報を与えるのだから、その報酬として単位を献上するのは当然とのことらしい。それに加えてこんなことも言っていた。なんの条件もなしに入れて、得るものだけ得て下剋上されても困る、と。

 そんな中、決して単位に余裕があるわけではない俺達は、クラン加入の有無について頭を悩ませていた。

 一度会場を離れ、人の少ない場所で議論タイムだ。


「今までの話を整理すると、クランに入ると単位を効率よく取得することができるのが最大のメリットって認識でいいか?」

「だね。で、引っかかっているのが入会に単位を求められるところと、入会後もことある毎に単位を求められそうってところ」

「んでも、それにもしっかりとした理由があるわけだろ?」

「戦うのが苦手な人が得意な人に単位を渡して、スキルを買って強くなってもらって、戦ってもらう。そうして取得した単位を分配することで、私みたいな人でも単位がたくさん取得できるって言ってましたよね」

「だけどそれだって返ってくるって保証がないだろ。新入生狩りなんてものが横行してる学園なんだから、安易に人に単位を渡すような真似はしたくないよな」


「ちゃんと返ってきそうな小さいクランに入ってローリスクローリターンを狙うか。デカいクランに単位預けてハイリターンを狙うか。信用問題だよな」

「でも、いずれにしても他力本願的な面があるのは否めないな」

「あーカナン戦優勝狙ってるエルからするとちょっち引っかかるものがあるわな」

「他にメリットとして挙げられてたのはオリジナル魔導具の作成とか過去問の融通とかだね。でも、それもそこまで魅力があるかって言われると微妙」

「イオナさんが作ってくれるって言ってましたしね」

「これなら入らなくてもいいような気はするけど、皆はどう思う?」

 俺の問いかけに皆も同意した。だが、フレッドだけは入るかどうかは別として、これからもクラン探しはするらしい。


「そんじゃ、スキル買いに行くか。皆まだスキル買ったことなかったよな?」

「そうですね。私はまだスキル販売棟にも行ったことがないです」

「私達もそうだよ。フレッド君は?」

「俺は買ったことはないけど、覗いたことはあるぞ。あそこめちゃくちゃ混むから一回生が勧誘会に集まってる今がチャンスだな」

「タイミングいいな。それじゃ行くとするか」


 そうして、フレッドの案内に従ってスキル販売棟を訪れた俺達だったが、待ち受けていたのは人の群れだった。一回生の大半が勧誘会にいるはずなのに、それでも所狭しと室内を人が歩いていた。

 スキル販売棟は主に二つの施設に分かれていた。スキルの購入を行う施設と、購入したスキルを試し打ちする射撃場のようなところだ。

 射撃場では広大な土地にターゲットが自動で現れて、各ブースに立った学生がそれに向かって魔法を放っている。まるでゴルフの打ちっぱなしだった。


「ほんと、この学園の施設っていちいち広いよね」

 アイシャの言う通り、スキルの試し打ちができる射撃場も一人一人のブースに分かれているのだが、その数がざっと見ただけでも100を超えていた。その中で学生が思い思いにターゲットに向かって魔法を打つものだから射撃場の地面がボコボコになっていた。

 で、肝心のスキル購入だけど、

「なんだこれ」

 スキル販売所と書かれた案内に従って来たはいいものの、今俺達の目の前には四角い縦長の箱型端末があるだけだった。屋外設置の缶タイプ灰皿よりも少し背が高い程度のそれは、プレートの差込口があるだけで、それ以外に何もなかった。


「とりあえずプレート差込口があるんだし、入れてみたら?」

「まあ、そうするか」

 差込口にプレートを入れると、急に画面が表示された。箱の上部から浮き上がって表示されている画面には、『チュートリアルを受けますか』と書かれていて、その下に『はい』か『いいえ』を選ぶ欄があった。

 受けないという選択肢がないので『はい』の部分をタッチすると、画面が切り替わり『スキルツリーシステム』と題された説明文が表示された。

「またこういう感じか……」


 説明文がやたらと長いので流し見して要約すると、たぶんこんな感じだ。

スキルの購入形式はツリーとなっていて、Aというスキルを買うためにはその下のBとCというスキルを購入する必要がある。だから例えば、単位を溜め込んでいきなり最上位の強いスキルを購入するってことができないということだ。

 後はなんか放出系とか操作系とかその辺スキルはスタートラインが違うから1から購入する必要があるとか書いてるけど、まあ買ってく内にわかることだろう。


「えーと、で、今俺が買えるスキルでいうと、アッシュの上にシンデレラってスキルがあるな。試しに買ってみるか」

 シンデレラという項目をタッチすると、スキルの説明が表示された。なんでも灰を被ることで変身できるらしい。必要単位数も5単位だし、とりあえず買ってみるか。

 購入をタップすると、残り単位数の部分が減った。これで購入完了ってことだろう。後はなんか俺も攻撃系のスキルがほしいから灯火という2単位のスキルを購入した。

「で、終了と」

 終了をタップすると、プレートが戻ってきた。ステータスを表示して確認してみると、たしかにスキル欄に先程購入したスキルが追加されていた。


「ほへーこうやってスキルを購入するんですね。なんだか面白いですねえ」

「そしてスキルを買った学生は意気揚々と試し打ちをしに射撃場に行くってわけか」

 なるほどたしかにフレッドの言う通りスキルを買うと試し打ちしてみたくなる。

「皆もなんか買ってみたらどうだ?」

「なんか私のスキル異様に高いんだけど、どうして?」

 言うが早いかすでに端末にプレートを差し込んでいたアイシャが言った。画面を覗いてみると、たしかに必要単位数が俺よりも多かった。


「そりゃあれだろ。強いスキルになればなるほど必要単位数は増えるからな。アイシャちゃんのスキルはスタートから強いからその次のスキルも相応に高いってことだ」

「そういうことね。でも私のスキルってチャージが必要だからあんまり使い勝手よくないよね? その辺どうなんだろ」

「アイシャの魔法は強力だよ。直接食らった俺が言うんだから間違いない。あれだってまだチャージできるんだろ?」

「そうだけど……一対一じゃ使えないからなあ。今回は発展系は諦めて別の初級スキルを買おうかな」


 そうして、各々がスキルを購入した。そして、というかやっぱり、俺らも射撃場にいる学生達の例に漏れず、試し打ちしたいという欲には抗えず射撃場へと移動していた。


「えーとまずはシンデレラを試してみるか」

 アッシュで変えた灰を頭から被って、フレッドの姿をイメージしてシンデレラを発動した。

「うお! 俺がいる!」

「鏡ないからわかんないんだけど、ちゃんと変身できてるか?」

「キモイくらい俺にそっくりだよ。んでも声はエルのままなのな」

「マジか」

「どれ次はアイシャに」

「きゃー! 私の顔でエルの声ってやめてよー!」

「へー女にも変身できるのか。便利だな。次はサーシャ」

 うお、マジか。流石に身長は変わらないけど、まさかサーシャの豊かな胸まで再現できるとは思わなかった。

「わあ、私がいます」


「スゲー! ちょっち胸触らせてくれよ!」

 そう言ってフレッドが濡れた手で俺の胸に触れてきた。すると、

「あー! 俺のお胸が萎んでいくぅ!」

 萎むというか、サラサラと光の粉になって変身していた部分が元に戻ってしまった。おかげで片方の胸だけ飛び出ているというなんともな格好になっている。

「なんでだ? 触られたら変身が解けるのか?」

 そう思って再度フレッドに残った方の胸を触らせたが、今度は変身が解けなかった。


「んー? お前さっき濡れた手で触ったよな?」

「ん? しゃーねえだろ。俺の魔法水系なんだから使ったら濡れちまうんだよ」

「もう一回濡れた手で触ってくれないか?」

 フレッドが魔法で水玉を生み出して、それに手を入れて濡らした。そのベチャベチャになった手で飛び出た胸に触れると、サラサラと光の粉になって胸がなくなった。

「なるほど。濡れると変身が解けるのか。制服が濡れたけどおかげで弱点がわかった」


「それ見ると、魔法って案外万能じゃないって思うよな。せっかく覗きに使えるかと思ったのに」

「まあ、便利なものには弱点がつきものさ。ってか最初から説明しておけって話だよな」

「ごもっともな意見。シンデレラっていうくらいだから深夜0時になったら魔法が解けたりして」

「あり得る。使い所を考えないといけないスキルだな。しかもこれ、結構維持するのに神経使うな。油断すると変身がブレる」


 常時発動型の魔法だから、しっかりとプレートに必要な量の魔力を送り続けないと変身が解ける。かといって送りすぎても変身が解ける。慣れるまで時間がかかりそうだ。

 もう一個のスキル、灯火は5分間だけ火を出せる魔法だった。攻撃系魔法のつもりで買ったんだけど、これもせいぜい目くらましくらいしか使い道が思い浮かばなかった。

 そうして買ったスキルを試し終えた頃には、すっかりと空が暗くなっていた。時間も時間だし、ということで今日は解散となった。

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