第11話 快活系技工科先輩、満を持して登場!
「さー寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 我らが魔法愛好会へようこそ!」
「魔法で人に笑顔を! 一発ネタ持ってる人優遇だよー」
「肉体強化魔法を極めよう。筋肉に自信あるやつ求む!」
真面目そうなクランからネタに走ったとしか思えないクラン、暑苦しそうな部活。よりどりみどりだ。
「どこの祭りだって感じだな……」
「ほんと、熱気にやられそう」
実際、お祭りみたいに皆声をあげるもんだからただ立っているだけでも蒸して汗が出そうだった。
「皆さん真剣ですねえ」
「そりゃーそうだろ。メンバーや部員が増えれば増えるほど学園での生活が有利になるからな」
機嫌が治ったらしいフレッドがなんでもないことのように言う。
「どうしてですか?」
「簡単な話しだよ。単位なくなった時に融通してもらったり、部員が増えたらそれだけ実績が挙がるチャンスだろ? 実績挙げたら学園から単位貰えるし、単純に横の繋がりも増えるから学園が明示してない情報が先に手に入ったりする。言っちゃえば今の俺らもクランみたいなもんだよ。上級生がいないから情報って面で弱いけどな」
「ほへー。そういうことだったんですね~」
「お前ほんと謎に頭回る時あるよな」
「フレッド君がただのお調子者じゃないところだよね」
「お前ら俺のことアホだと思いすぎな。俺だっていろいろ考えてるんだぜ?」
「フレッド君の場合は普段の行動がいけないんだと思う。私達がいないところでいろんな女の子にちょっかいだしてるでしょ。私知ってるんだよ?」
「ゲッ! なんでそのことを」
「お前そんなことやってたのか……」
「幻滅です」
「ち、違う! 俺はただ芸術的な美を持つ人にデッサンをやってもらうためにだな――」
「はいはい。言い訳は見苦しいからやめなさい。それよりクランと部活だよ。どうしよ」
どうしようかな、なんて思いながらぷらぷら歩いて周囲を眺めていると、誰も人が集まっていない小さなブースが目に入った。他のブースは参加希望者が群がっているのにそこだけ誰もいないものだから目立っていた。
不思議に思って見ていると、ブースの主と思しき変わった格好の女学生と目があってしまった。
名も知らぬ彼女は、栗毛をポニーテールにして、帽子を被っている。そこまでは普通なんだけど、ツナギを着ていた。しかもツナギの上半身を脱いで腰で巻いているせいで上半身だけ見たらランニング一丁だった。そこかしこに炭がついているから、いかにもモノづくりしてますって風貌だ。
そんな女学生がとても期待に満ちた瞳をこちらに向けるものだからなかなか目を離せないでいると、ついにあちら側から声をかけてきた。
「今あたしのこと見てたよね?」
「見てないっすよ」
「いや見てたよね?」
「見てないです」
「会話までしてるのにそれは無理がある! ってことでこっちおいで!」
ブースを飛び出した彼女は俺の手を引っ張って自分のブースまで連れ込んだ。
「こっち見てたってことは魔導具研究会に興味あるってことだよね?」
「ないっす。たまたま目が向いただけです」
「またまたー。恥ずかしがらなくてもいいんだよ? ホラホラ、素直に入部希望者ですって言いなよー」
「いやまったく入部の意思ないっす」
「ほんとに?」
俺の目を覗き込みながら言う先輩に「ほんとに」と返す。
そこからしばらくまた無言で見つめ合う時間が発生したが、やがて先輩は大きなため息をついた。
「いや実はさ、見てわかる通りウチの部あたし以外に部員がいなくてさ。今回の勧誘会で新しい人入ってくれないと廃部の危機なんだよねー。いやーまいったまいった」
「そうですか、大変なんですね。じゃ俺はこの辺で」
「いやいや待ってよ! そこはじゃあ俺が入部してあげますよって言うところじゃん! 今なら美人な先輩がついてくるんだよー? ちょーお得じゃん?」
「いやそんなこと言われても……」
先輩はたしかに美人だけど、それだけでこんなわけのわからない部活に入部する理由にはならない。なんなら美人なせいで美人局を疑ってしまう。
「こんなにお願いしてもダメ?」
うるうるという単語がついてまわりそうな瞳をさせて言う先輩に、俺は「うっ」と言うしかなかった。
「ねーいいでしょ? 幽霊部員でもいいからさー」
「……幽霊でもいいんですか?」
「うんうん! 書面上の数に含まれていれば大丈夫!」
幽霊でもいいなら籍だけおいて、何か他の本当に入りたいクランなり部活なりに入ればいい、のかなあ?
「あっ! いたいた! 急にいなくなるからビックリしたよー。こんなところにいたんだ」
頷きかけた俺の顎をアイシャの声が引き止めた。どうやら急に離れた俺のことを皆で探していたらしい。
「ちっ。もうちょっとだったのに……」
なんてことを言うんだ。危ないところだった。やっぱりこの先輩美人局なんじゃないか?
「まあちょうどいいや、君のお友達でしょ? お友達にも紹介させてよ」
「まあ、皆がいいって言うならいいですけど」
「うお! 快活系美人先輩じゃねえか。エルいねえと思ったらこんな美人と二人で話してやがったのかよ」
「話してたというか強引に勧誘されていたというか……。なんか廃部の危機らしいぞ」
「どんなことをする部活なんですかあ?」
「よく聞いてくれた! あたしの部はね、魔導具を作ったり、機巧人形を作る部なんだ。面白いよー」
「機巧人形? 初めて聞きました」
家に魔法関連の蔵書がたくさんあるアイシャですら初耳なのだから、当然他のメンバーも聞いたことがなかった。
「まあマイナーだからね。別名マシンドール。機械仕掛けの人形だよ」
「なんか格好いいっすね」
「お、興味でてきた? 機巧人形ってね、ゴーレムとかと違って複雑な動きができるんだ。召喚しちゃえばある程度勝手に動くしね」
「勝手に動くんですかあ? なんか生き物みたいですね」
「初めて聞いた人はよくそう言うね。私達のような技工科の人間にとって、人間と変わらない意思を持った機巧人形を作るのが一種の夢みたいなものなんだ。でも悲しいことに機巧人形を作ろうって人そんなにいないんだよねー」
「なんでっすか?」
「まず第一にコストがバカ高い。機巧人形一体作るのにとんでもない資材が必要だし、定期的なメンテが必要だから人件費もかかる。そして、これが一番大きな要因なんだけど、作っても使える人がぜんぜんいないんだよね」
「ぜんぜん話が見えないんですけど、ゴーレムみたいに動かせないんですか?」
「ゴーレムとはぜんぜん操作の系統が違うんだ。機巧人形は召喚系に分類されるの。あたし達が作った機巧人形を、召喚者が召喚して使役するんだけど、肝心の召喚系魔法を使える人がぜーんぜんいないわけ。いてもせいぜい簡単な作りの機巧人形を扱える程度。あたしが作ってるような複雑なのは立って歩かせるのも困難みたい」
「なんかそう聞くと問題だらけな気がするんですけど……」
「まあねえ。問題は多いけど、その分ちゃんと作られた機巧人形はとっても強力だから、様々な問題を補って余りあるほど戦力になるんだよ?」
なんか、なんだろう。実はこの部活面白いんじゃないだろうか。先輩が言ってることを俺ができるとはぜんぜん思えないけど、どこか男心をくすぐる何かがある。フレッドの方もわくわくした顔をして話しを聞いていた。
「一個質問なんですけど、俺ぜんぜん物作りとかわかんないんですけどそれでも入部して手伝えることってあるんですか?」
「もちろん! いろいろなデータ取りとかあたしが作った魔導具を試験運用とかね」
「ちょっと皆と相談させてください」
「はいはい。じっくり相談してくださいな」
先輩に断って、俺は皆に向き直った。
「どうしよう、俺この部活めっちゃ興味あるんだけど」
「奇遇だな。俺もめちゃくちゃロマンを感じてる」
「うーん。魔導具の試験運用ってことは学園支給の魔導具以外に触れられる機会があるってことだよね」
「模擬戦で戦ったアベルさんも学園支給のもの以外の魔導具を使ってましたよね」
「他の部活に入って、人に埋もれて何もできないより、先輩と俺らしかない部活で頑張った方がいいんじゃないかって気がする」
「実績云々は挙げづらいかもしれないけど、先輩に魔導具作ってもらえたら今後の単位争奪戦有利に進められるんじゃねーの? そうすりゃエルの目標にも近づくだろうし、俺らも単位取りやすくなるから進級に有利だろ」
「ってことは」
「ですね」
「よし、入部しよう。先輩」
「ん、なになに? お友達との相談は終わった?」
「はい。俺達を入部させてください」
「全員?」
「はい。俺達全員です」
「やったー! これで廃部回避! お礼に皆に魔導具作ってあげるよ!」
先輩は余程嬉しかったのか両手を挙げて花が咲くような笑顔をして言った。
「ははっ、ありがとうございます。先輩の名前教えて下さい」
「そかそか、まずは自己紹介だね。あたしはイオナ。イオナ・カートライトっていうんだ。皆は?」
「エルです。エル・グリント」
「俺っちはフレッド・デューイ」
「私はアイシャ・ティアーヌです」
「サーシャ・ブレッドです。よろしくお願いします」
「うんうん。しっかり覚えたよ! プレート出してもらえる? 今皆のプレートにあたしの部室の場所送るから、時間ある時に来て入部届書いてね」
イオナ先輩からデータが送られ、学内マップの一部分にマーカーがついた。
「あたしはまだブースにいなきゃだけど、皆はどうするの? クランに入ったりするの?」
「そうっすね。これから探そうかなって思ってます」
「悪いクランに入って単位没収されたりすることがないよーにね。ほいじゃねー」
イオナ先輩に別れを告げて、俺達はクラン探しをすることにした。しかし……。
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