第10話 生徒会主催のイベント

 翌日の放課後、俺達は約束通り集まり生徒会主催のイベントに参加していた。

 屋内演習場を貸し切って行われる今回のイベントには、俺達みたいな一回生が大勢参加していた。

 主催者側の生徒会は、通常教員が立つ特別観戦席に立ち、イベントの開始を宣言するまでの間忙しなく動いている。

その他にも、一回生の参加を待ちわびている上級生がそれぞれのブースで開始までの間に準備に追われていた。


「それでは、時間になりましたのでイベントの開始を宣言いたします。まず、全体の説明を行いますので、参加者の皆様は説明を聞いてから動き始めてください」

 大講堂の四方に設置された音響水晶から生徒会の人の声が響く。


「本日のイベントはクランと部活の合同勧誘会となります。クランという単語に聞き慣れない一回生の方のためにクランの説明から始めます。クランとは、様々な設立理念がありますので一概にはいえませんが、基本的には同一の理念を持った者同士が集まり、お互いを高め合う組織のことをいいます。もちろん、これはあくまで一つのケースですので、クラン毎に違う理念、やり方があります。本日の勧誘会は、生徒会主催ですので健全な部活とクランしか参加していません」

 その言い方だと健全じゃないクランや部活もあるって言ってるようなものじゃないか。本当にめちゃくちゃな学園だな。


「ですので、皆さん安心して上級生の説明を聞いて、何が自分に合っているかしっかりと判断してください。尚、生徒会のブースでは学園生活全般の相談会を行っています。学園生活に不安がある方はこちらまでお越しください。これで説明を終わります」


 それまで静かに聞いていた学生達が、説明が終わると同時にガヤガヤと騒ぎ始める。皆思い思いに移動するものだから場がわちゃわちゃしている。


「どーする? まずは生徒会のブースに行ってみるか?」

「そうですね、そこで相談してからどこに所属するか決めましょうか」

「だね。これは買っておいた方がいいスキルとか聞いておきたいし。この学園ほんと説明ないからこういう機会に積極的に参加しないとわけわかんないもん」

「言えてる」

 アイシャの言う通り聞ける機会がいつでもあるわけじゃないから今がチャンスだ。


「一応言っておくがクランと部活に入るのは強制じゃないからな。いいところがなかったら入らなくてもいいし、生徒会主催だから集まってる連中がクリーンすぎる」

「なんだよフレッド、クリーンだとなんか問題があるのか?」

「俺の芸術が理解されない。さっきちらっと参加部活を見たが、俺が入ろうと思ってた部活が参加欄になかった」

「じゃあ安心して部活に入れるってことだね」

「おい!」

「会話にオチがつきましたね」


 結構な数の相談員が生徒会ブースにいるはずなのに、どこの列に並んでもズラッと人がいる。それだけこの学園の生活に不安を抱いている人がいるということだろう。

 本来だったらこの仕事は学園の仕事だと思うんだが、それすらも学生側がやってる。自治というか運営に片足突っ込んでるな。


 雑談をしながら順番を待っていると、ようやく俺達の番がやってきた。補佐の人が用意してくれた椅子に座ると、相談員の人がすでに疲れた顔をしているのが見えた。これだけの数の相談に乗っていれば疲れもするだろう。同情する。


「えーと、4人いっぺんね。初めまして、ウルナ・ユースキンです。今日はどういった相談?」

 いろいろ聞きたいことはあるがまずはこれだろう。

「ロードオブカナンで優勝を目指してるんですが、最短ルートを教えてください」

「また壮大な相談がきたものね。簡単よ、強くなればいいのよ。学園が認めるほどね。単位をたくさん稼いで、スキルをいっぱい買って、単位争奪戦で勝ちまくる。そうすれば、勝率とかの情報が学園側にいくから、カナン戦の時期になったら学園から連絡がくる」


「勝率? 初耳なんですけど」

「読んで字のまま。単位争奪戦の勝率よ。EランクからSランクまである。一回生は皆Eから始まるから、これからのあなたの頑張り次第ね。でも、一回生でカナン戦に出場するなんて例がない。最速でも二回生から。二回生にしたって普通にやってたら出場資格なんてもらえないわ。例外になるとしたら、ウチの生徒会長くらいかしら」


「そんなに生徒会長って強いんですか?」

「少なくとも私が生徒会に入ってから会長が負けているのは見たことがないわ。生徒会って揉め事の解決もするんだけど、口で言ってきかない連中ばっかりなのよ。そうなると、怒りの矛先がこっちに向くんだけど、会長は皆返り討ちにしちゃうんだもの。びっくりよ」

 俺が関心していると、ウルナさんは俺の肩をポンっと叩いてこう言った。


「ま、あの人は例外中の例外だから、君は真面目にコツコツ頑張りなさい。そうしたら三回生で声がかかるかもしれないから。それじゃ、次の相談どうぞ」

 俺の相談はどうやらここで打ち切りらしい。ウルナさんはアイシャの方を向いた。


「えと、さっきの話しで強くなるにはスキルを買うしかないって言ってましたけど、これは持っておいた方がいいってスキルとかってあるんですか?」

「難しい質問ね。まだ講義の方で説明がされていないんでしょうけど、人によって適応スキルっていうのがあるのよ。魔法に系統があって、放出系と呼ばれる火とか水を出すやつとか、操作系っていう物を動かすものとかね。その人がどんな魔法を使いやすいかによって買った方がいいスキルっていうのが変わってくるのよ」


「合わないスキルを買っちゃうと使えないってことですか?」

「っていうわけでもないんだけどね。操作が難しくなっちゃうのよ。威力の調整だったり勢いだったり。それを補助するのが魔導具なんだけど、どっちにしても合わないスキルだと神経すり減るわけ。だから、自分に合ったスキルを買って、それを活かせる講義を履修して単位をとってってやり方がスマートね。この説明で納得できた?」

「はい! ありがとうございます」


「じゃ次。ぽわぽわした子、どうぞ」

「えーと、補助魔道具と定期試験について教えて下さい」

「補助魔道具ね。さっきも言ったけど、魔法の数値調整を補助するものよ。私は技工科じゃないからあんまり詳しく説明できないの、ごめんね。詳しく聞きたかったら今日の参加クランとか部活に技工科の学生が集まったところがあったはずだから、そこに聞きに行って」


「わかりました。あと、定期試験なんですけど、シラバスを読んでもただ試験としか書いてなかったのでどんなことをやるのかわからなかったんです」

「あーはいはい、例年その質問する人いるのよね。何回も学園にシラバスを充実させてって嘆願書出してるのに一向に聞き入れられる様子がないのよね……」

 学生側の苦労が垣間見えた瞬間だった。やっぱり俺が思ったことは他の人も思っていたわけだ。安心した。それでも尚直さない学園側には何か理由でもありそうだな。


「たぶん何も考えてない人を落とすためなんでしょうけど、それにしたってもう少しやりようがあるでしょうに。こっちの苦労も考えてほしいものだわ……」

「大変なんですねえ。ごめんなさい、こんなこと聞いちゃって」

「あ、いいのいいの。あなたは悪くないから。それで、試験の内容だったわね。試験はペーパーテストと実技の二つよ。総合点が130点未満の学生は退学。で、ペーパーの方はまだ点数配分とかわかるんだけど、実技の方の採点基準は学生側に明かされてないの。どう考えてもペーパーが赤点なのに、成績上位者に載ってたりするのよね。だから、たぶん実技は100点満点じゃない。まあ、真面目にやってれば落ちることはないから安心して」


「わかりました。ありがとうございます」

「あ、そうそう。学期末毎に進級に必要な単位数が決まってるから、無計画にスキルを買いまくって進級に必要な単位がないってことにならないように気をつけてね。毎年そういうバカがいるから。じゃ次」


「今日参加していないクランで、大きいクランを教えてください」

 フレッドの質問にウルナさんは目つきを鋭くした。

「どうして?」

「いやいや、俺ちゃん情報収集が趣味なんすよ。この前ちらっとよくないクランのことを耳にしちゃったもんで気になって」

 フレッドのおちゃらけた言動に、一転してウルナさんは「そういうこと」と言ってため息をついた。


「あんまり教えて興味持たれても困るから名前だけね。私達の間で要注意クランとして名前が挙がっているのは、ワイルドバンチ、三会連合、クレジット商会、繁華連盟の4つよ。特にワイルドバンチは毎年新入生狩りを斡旋していたりする、ならず者集団。危険だから近寄らないように。以上」


「もうちょい教えてくださいよ。特に三会連合について。お願いします」

 渋るウルナさんだったが、お願いを続けるフレッドに折れたのかこう言った。

「……ちょっとだけよ?」

「いよ! お大臣!」

「やっぱり教えるのやめようかしら……」

「すいませんすいません、教えて下さいすいません」


「……はぁ。三会連合はその名の通りもともと3つのクランだったのよ。それが現クランリーダーが吸収合併して今があるって感じ。ワイルドバンチほどではないけど、結構強引なことをやっているから近づいちゃダメよ?」

「もうちょい詳しく」

「ダーメ。他に相談事はない? なかったら次の人に回すわよ」


 フレッドが食い下がっているが、これ以上お願いしてもダメそうな雰囲気だったので、渋るフレッドを引き連れてその場を離れた。


「こういうのって終わった後にまだなんか聞いておくことあったような気がするよね」

「言えてる。俺ももっと他に聞いておくことがあったような気がしないでもない」

「でも考えても出てこないんですよねえ。不思議です」

「俺はまだ聞きたいこと聞けてないぞ!」

「まだ言ってる」


 アイシャがげんなりするのも当然だ。フレッドは相談ブースを離れてから今までずっとブツブツ言い続けている。何をそんなに食い下がる理由があるのか不思議だ。

「フレッドもいい加減切り替えて、クランとか部活探そうぜ?」

「しゃーねえなあ」

 俺達は生徒会ブースを離れ、一般参加者のブースへと向かった。

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