第78話
「大丈夫か結衣?」
「う、うん……」
俺たちはここならもう大丈夫だろうと言うところまで逃げてきたところでひと段落をついた。
「ごめんな。もっと早く助けてれば……」
俺は圧倒的に後悔していた。もっと早くに動いていれば結衣の悲しむ姿も見ることはなかったのに。
「しょうがないよ。誰でもトラウマがあるんだし」
結衣は俺を慰めるようにそう言った。
「結衣は強いな」
結衣も怖かったはずなのにあそこまで強気で言えるなんて本当に強いなって思った。
「そんな事ないよ。私一人じゃどうせ諦めてた。でも隣にけいくんがいたから、絶対に助けてくれると思ってたからだから強気でいることが出来たんだよ」
結衣は赤く腫らした目をしながらも、こちらを見てしっかりと伝えてきた。
そんな風に思っていたなんて全く気付かなかった。
「それなら俺は結衣を助けるまで時間がかかり過ぎた。結衣は俺の事を信じてくれていたのにこんなに情けなかったら幻滅するよな」
小さく自信なさげに言った。今さっきの出来事は中学の時にあったかもしれない。
あの時は助けられなかったけど今は助けられるそう思っていたのも、ただの思い込みだったのだろう。
「そんな事ない! けいくんは助けてくれたでしょ! それにそんな簡単に幻滅するほど私は安い女じゃないよ!」
結衣はまた泣きそうになっていた。しかしさっきの涙と今の涙は違うような気がする。
「けいくん。私はけいくんがいないと何も出来ない。でもけいくんがいると何でも楽しくて何でも出来て、そう思ってる。けいくんは違う?」
「それは……同じだ……」
否定なんてするはずもない。俺だって一人じゃ何にも出来ない。
結衣が隣に居るから「頑張ろう」とかやる気も出てくるし、いつでも楽しい。その気持ちは嘘であるはずがない。
「でしょ? なら私がけいくんに幻滅することなんてないよ」
「ああ。確かにそうかもな」
俺が笑って結衣の方向を向くと結衣もまた笑っていた。
また結衣に助けてもらった。俺は何も返せてないな……。
「これから俺は結衣に喜んでもらえるように、結衣を助けられるようにもっと頑張るよ」
「けいくんはそのままでいいよ。けいくんが私に助けられてるって思ってるように、私だってけいくんに数え切れないほど助けてもらってる」
結衣はゆっくりながらもそうやって言葉を紡いでいった。
そして最後に結衣はこう付け加えた。
「今までも、これからも私は佐々木圭人をけいくんを愛してます」
俺はその言葉に抑え切れなくなった。目頭が熱くなるのを感じる。涙が頬を伝うのを感じる。
結衣に涙を見せるなんて恥ずかしいし、泣きそうになっても隠していた。でも今はそんなことを考える間も無くひとつのことを思っていた。
(結衣に触れたい……)
そう思ってからは早かった。
「俺も結衣のことを笹原結衣を愛してる。大好きだ!」
結衣の背中を引き寄せて、結衣の目を見てそう言った。
「けいくん……」
声にもならないような声でそう言うと、結衣は瞼を閉じた。
俺はその合図に気づかないわけもない。
「結衣……」
溢れ出すようにそう言うと、唇を重ね合わせた。
結衣の吐息を感じる。結衣の匂いがする。何だかわからないけど、あり得ないほどの安心感に包まれた。
どれくらい時間が経ったか分からないところで、唇を離した。
「けいくん。私、今人生で無いくらい幸せだよ」
「俺もだ。結衣」
そうやり取りするとまた、唇を重ねた。今の気持ちを忘れる無いように。
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