第77話


「美味しいねー。クレープ」


 結衣はストロベリーのクレープ。俺はバナナのクレープを頼んだ。


「けいくんのも一口頂戴」

「はいはい」


 俺はしょうがないな、と思いながら結衣の方にクレープを近づけた。


「やっぱりバナナもいいね。美味しいや。じゃあ、あーん」


 口の中のクレープを食べ終わると次は、結衣が持っているクレープを俺の口に近づけてきた。


「いや、俺はいいって」

「本当にー?」


 こんなところで恥ずかしいしと思いながらも、結衣のニヤニヤした煽るような表情に耐え切れずクレープを口に含んだ。


「美味しい?」

「ああ。美味しいよ」


 結衣が嬉しそうに訊いてくるので素直を頷いた。


「最近けいくんって素直になってきたよね」

「そうかー?」


 結衣がいきなり言ってきたので首を傾げる。自分では昔と同じ気分なんだけどな。


「うん。なんて言うんだろうね。恥ずかしさが減ったのかな?」

「いや、十分恥ずかしいって気持ちはあるぞ」

「それじゃあ、自分に自信を持つようになったとか?」

「……それはあるかも」


 一度この街を離れたお陰で俺は色んなことに挑戦もできたし変わる努力もできたんだと思う。だから自信を持つようになったとかとかは納得できる。


「まぁ結衣が言うんだからそうかもな」

「でしょー。やっぱり私がけいくんのこと一番知ってるんだから」


 そうやって胸を張る結衣。

 それはなんの自慢なんだろうか。そう思いながら苦笑していると横から誰かに話しかけられた。


「結衣さん?」


 その方向を振り向いてみると、俺と同じぐらいの年の男が三人立っていた。そいつらは俺をいじめていた奴らだ。忘れるはずもない。


「おおー本当だ!」

「どこの高校に行ったんですか!」

「そうですよ。最近全然見てなかったから心配で」

「…………」


 結衣を見つけた途端、弾丸のようなスピードで疑問を問いかけてくる男たち。当然結衣も困っていてた。

 そんな結衣を助けようとして、声を出そうとした瞬間、


「結衣さん。この男は誰ですか?」


 俺に話が飛んできた。


「えっ! 誰かわからないの⁉︎」


 結衣は思わず声をあげていた。驚いたような怒っているようなそんな顔で。


「まさか圭人かー? そんなわけないよな」


 男の一人がそう言って笑う。


「あり得ないって。あんなブスとこのイケメンを一緒にしたらダメだって」 

「だよなー」


 他の男二人もそれに便乗して笑う。俺がいじめられていた頃そっくりだ。誰かが俺をいじめそれに加担しながら笑う。

 どんどん昔の記憶がほじくり返されていく。


「…………」

「で、この男は誰っすか? もしこの男に無理強いされているだけなら俺らと遊びませんか?」

「絶対に嫌だ。少なくともあなたたちとだけは死んでも無理」


 俺でも聞いたことがないくらいの冷たい口調で、蔑むような目で結衣は答えていた。


「なんだよその口調は。せっかく誘ってあげてるのに」


 どんどんと男たちの口調が荒くなってくる。続け様に男たちが付け加えてくる。


「俺たちが圭人から守ってあげてたのに」

「はっ? あなたたち本当に何言ってるの?」


 結衣の様子も段々と怒りの感情しか無くなっているように見える。

 本当は俺が助けないといけないのに、体が動かない。声が出ない。昔の記憶が蘇ってくるたびに逃げ出したくなる。

 自分の顔が青白くなっているのが感じる。そんな中結衣と男たちは口論をしていた。


「結衣さん。ちょっと反抗的だと思うけど」

「これは催眠でもされてるよ。無理矢理にでも助けてあげないと」

「そうだな」


 勝手な想像をして結衣を連れて行こうと言うような話が聞こえる。俺は怖くて見れなかった。結衣の方がずっと怖いはずなのに。情けない。

 その直後、結衣の「やめて‼︎」と大きな叫び声が聞こえた。

 ハッと思わずその声の方を見てみると、結衣の腕ががっしりと男に掴まれていた。


「いいから来いよ! 楽しいことやろうぜ」

「離して!」

「暴れるなって」

「けいくん! 助けて!」


 結衣の目から一筋の涙が溢れた。そんな結衣の様子を見た俺は、そんな結衣の助けを呼ぶ声を聞いた俺は、体が勝手に動いたように結衣を掴んでいた手を振り解いた。


「お前らいい加減にしろよ! 俺の彼女に何しようとしてんだよ!」

「あ? なんだお前」

「俺はお前らが馬鹿にしていた。佐々木圭人だよ!」

「はっ! お前やっぱり圭人だったか。俺たちから逃げた軟弱者の圭人か」


 俺の事を嘲笑うようにこっちを見て言ってきた。


「俺は別に何と言われようが何されようが構わないがな。結衣だけには手を出すなよ! 関係ないだろ」

「おーおー。かっこいいこった。じゃあ結衣さん行こうか」


 そう言って結衣の手を取ろうとする。こいつは人の話が聞けないのか。幼稚園児以下なのか。もうはらわたは煮え繰り返っている。

 伸ばされた腕を俺が弾こうとすると、その前に結衣が一歩下がり手の届かないところに移動して口を開いた。


「私はけいくんと一緒に居れる今が一番楽しいの! 中学時代は邪魔されて居れなかったけど高校からまた一緒に居れて楽しいの! だからもう邪魔しないで!」


 結衣はボロボロと涙を流しながら訴えていた。その様子に流石の男共も引いてしまっていた。


「もういい……」


 諦めてくれたのかと安心していると真逆のことを言ってきた。


「力づくでも結衣さんを連れていく」


 男はすごい形相で結衣の腕を掴む。


「離せよ!」


 俺は思わず結衣の腕を掴んでいた男を殴ってしまった。


「っいて……。何すんだよお前!」


 怒り狂った男は俺に向かって襲ってくる。俺はそれを掻い潜り結衣の手を掴んだ。


「逃げるぞ」

「えっ……?」

「早く!」

「う、うん!」


 俺たちはこの場を後にした。

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