第73話
「なあなあ、そろそろ俺とも話してくれないか?」
三十分近く二人で話していたため痺れを切らした俺は、二人の間に入ってそう話しかけた。
「ねえねえ結衣ちゃん。この人だーれ?」
「けいくんだよ。寧々ちゃんのお兄ちゃんの」
「さっき普通に、お兄ちゃん! って呼んでたよな?」
寧々の反応に思わずツッコミを入れてしまう。
「はー……。やっぱりお兄ちゃんをからかうのは楽しいね」
「やっぱりわざとかよ! それに結衣もだよ」
「私も?」
私は関係ないよー、という風に座っていたので巻き込んでやる。
「寧々に合わせて俺を無視してたじゃないか」
「別に無視じゃないもん! 普通に寧々ちゃんと話してただけだし」
結衣がひとしきり言い終わると、ねー、と結衣と寧々は顔を見合わせていた。
「それにしても結衣ちゃんもだけどお兄ちゃんもだいぶ変わったよね」
急にそんなことを言ってくる。
「そうか?」
「うん、大分変わったと思うよ。向こうで何か良いことでもあった?」
「…………」
そう言われて少し考えてみる。
最初は結衣と同居するってなって驚いてたけどその生活にも慣れて、向こうで親友と呼べるほどの友人もできた。
そして何より結衣と付き合うことになった。
今考えてみると思った以上にたくさんあったんだなと思った。
そんなことを考えていると、一瞬こちらに目を向けた後、結衣が口を開いた。
「うん! めちゃくちゃ良いことがあったよ。人生で最大級の!」
「へー。じゃあやっぱり……」
意味深に寧々は考え込んでいた。俺たち二人を交互に見合わせて。
「やっとかー……」
というため息にも近い声をあげて。そして少し静かな時間に包まれた。
「良かったね! 二人とも」
寧々は最後にそう言った後「トイレに行ってくる!」と言葉を残してこの場を去った。
あまりの行動の不自然さに俺たちは首を傾げていた。
「どうしたんだろ?」
「さあ?」
それからは時間が経ち結衣や寧々とも楽しく話した。
そして結衣のお母さんが帰ってきて、俺の父さんが帰ってきて、ようやく全員が揃った。
***
寧々が二人から離れた時の出来事だった。寧々はトイレに篭って独り言を呟いていた。
「いやー、やっとあの二人が付き合ったのか」
私は小さい時からあの二人のことを見てきたし、可愛がってもらってたから分かる。
それからお兄ちゃん達に何があったのかも良く知ってる。
「本当に良かったよ……」
安心したように呟くと目頭が熱くなるのを感じた。それからは目からどんどん涙が溢れてくる
「あ、あれ? どうしたんだろ私……」
なんでかはちゃんとは分からないけど、多分、安心したのだろう。
中学の時の地獄のような日々も近くで見ていたから余計に。
あれから疎遠になっていた仲もちゃんと戻るどころか付き合ってるなんてやりすぎだよね。
私は心を落ち着かせるために少しの間この場でボーッとしていた。
次第に落ち着いて来たので二人のところに戻ろうと思う。
「結衣ちゃんを泣かせたら許さないだからね。ばかお兄ちゃん」
誰にも聞かれないように自分の心だけに聞こえるようにその言葉を言って二人のところに戻った。
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