第68話

「けいくーん急いでー! 遅れちゃうよー!」

「分かってる」


 とある日の朝、俺たちはドタバタしていた。



 ***



「それじゃあ明日そっちに向かうから」

『気をつけて帰ってくるのよ』

「大丈夫だよ」


 その会話を最後に電話を切った。


「それじゃあ明日に帰省だな」

「そうだねー。久しぶりに会うから何か楽しみだよ」


 夏休みに一度は帰ってこいと言うことになっている為、俺たちは言いつけ通り帰省する用意をしていた。


「久しぶりって言っても半年くらいしか経ってないんだけどな」

「確かに。でも家族と半年も会わないなんてこと初めてだからね」

「まあ、久しぶりにロッキーをモフモフできるのは楽しみだな」

「そこなの⁉︎」


 ロッキーというのは俺の家で飼っている柴犬の名前だ。名前の由来は知らないけど珍しい名前のような気もする。


「『寧々ちゃんに会えるー』とかじゃないの?」

「それは楽しみだけどやっぱりロッキーには勝てないよ。あの可愛い顔でクゥーンって鳴かれたら何でもしてあげれるぞ」

「ふふっ。なにそれ」

「普通だろ」

「なら」


 ロッキーの話を聞いた上で結衣が上目遣いで聞いてくる。


「私が悲しそうに泣いてても何かしてくれる?」

「……。当たり前だろ!」


 結衣が可愛いすぎて反応が遅れてしまった。


「ほんと?」

「ああ。本当だよ」

「良かった」


 結衣はフウーと三振したように息を吐いている。


「でもよく言ってる気がするけどな」

「ちょくちょく言ってくれないと心配になるの」

「そう言うもんなんだな」


 次からはちゃんと結衣の様子を見るようにしないとな。


「それじゃあ準備始めるか」

「えっ!」


 俺が帰省の準備をしようと立ち上がると、結衣はびっくりしたように声を上げた。


「まだしてなかったの?」

「えっと……。まぁ」

「もう夜だよ。急がないと。私も手伝ってあげるから」

「ありがとうな」

「困った時はお互い様だよ」


 そう言い終わると結衣も立ち上がり、二人で俺の部屋へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る