第63話

「どこから行く?」

「うーん……。りんご飴でしょ、焼きそばでしょ、それにかき氷は外せないし……」


 指で数える様にして一つずつ候補を上げていく結衣。


「食べ物ばかりだな」

「屋台の料理って高いけど美味しく感じるんだよね」


 俺が口を挟むと結衣は笑いながらそんなことを言っていた。

 結衣の言ってることはわかるけど、やっぱり食べ過ぎなんざないかと思った。


「そんなに食べたら太るぞ」

「だ、大丈夫だよ。その分動くもん!」

「そうか。それは応援してるよ」

「任せてよね。今よりも良いスタイルになるかもよ」

「ふうん」


 結衣は自信満々に言ったので思わず今のスタイルはどんなものかと、じっくり見てみた。そしたら


「けいくん。目がいやらしいよ」

 

 と、そんなことを言われた。


「ごめんな。そんなつもりは無かったんだけど、じっくり見る機会なかったしついつい見てしまったんだよ」

「見惚れてたの?」

「……そ、そうじゃない」


 結衣に図星を突かれたため、返答が遅れ声が小さくなる。


「やっぱりそうなんだ」

「なんだよ」


 やはり結衣にはバレたみたいで、ニヤニヤしながらこっちを見ていた。


「いやー。今の家で最初に会った時は、あんなに普通にみてきたくせにって思っただけだよ」

「…………。それ自分で掘り起こして良い話題なのかよ」

「…………。けいくんのエッチ」

「結衣から言ってきたんだけどな」


 結衣はあの時のことを覚えていなかったのだろうか。それとも俺をいじるのに必死だったのだろうか。

 耳まで赤く染め上げて恥ずかしがっていた。


「まぁ、別に良いんだけどね」


 少し沈黙が続いた後、結衣はいきなりそんな事を言い出した。


「それってどういう——」

「さあさあ、行くよ! 屋台の食べ物食べないといけないんだから」


 俺が訊き返す前に結衣は話を変えて、屋台に走って向かって行った。


「お、おい。ちょっと待てよー」


 俺はそう言いながら結衣のことを追いかけた。

 


***



「はぁ、もうつい、口から溢れちゃったよ。なんとか逃げれたけど」


 笹原結衣は少し先に行ったところで、「ふう」と息を整えていた。


「今回だけは、けいくんが鈍感で助かったよ」


 笹原結衣は一言そう呟いてから、


「けいくん、早くー!」


 と、急がせる様に大きな声で圭人を呼んでいた。

 

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