第64話

「うーん! 美味しー」

「そんなに美味しそうに食べられたら、そっちも気になるな」


 食べたいものをひと段落買って、河川敷の坂になっているところに腰を下ろした。

 そして俺たちは、かき氷を食べ始めた。俺がメロン味、結衣がいちご味だ。


「じゃあ、食べてみる?」

「良いのか? なら一口貰うぞ」


 そう言って、かき氷についてある、スプーンのような物で結衣のかき氷を救おうとした。

 しかし、


「ちょっと待って」


 と、静止を促された。

 どうしたのかと結衣を見ていると、結衣は自分のかき氷をすくって、こちらに差し出してきた。


「ほら、あーん」

「こ、こんなに人いる何か?」

「別に良いでしょ」

「ま、まぁなんだかんだ言って結構やってるし余裕だよ」


 口ではそう言っているが、心臓はバクバクに音を鳴らしている。

 その音をかき消すように頭を揺らした俺は、結衣が差し出してきたかき氷を口の中に入れた。


「どう? 美味しい?」

「あ、ああ。上手いよ」


 本当のことを言うと、緊張しすぎて、味は分からなかった。

 でも、その事を言うとからかわれそうだったので、言葉を飲み込んだ。


「どうしたの? 顔が赤いよ?」

「そ、そうか?」


 言葉は隠すことができても、顔は隠すことができなかったみたいだ。


「もしかして、恥ずかしかったのー?」


 結衣はニヤニヤ、しながらそんなことを言ってくる。


「べ、別に。暑いだけだって」

「本当にー?」


 俺が適当な言い訳をしても、結衣はここぞとばかりに攻めてくる。

 いつもはやられているから、やり返しって事なのだろうか。


 そんな時一つのアナウンスが鳴った。


『花火がもうすぐで、始まります。最初は〇〇株式会社様の提供です』


 と。

 いつもなら、雰囲気をぶち壊しのようなアナウンスだが、今の俺には救いの言葉だった。


「ほ、ほらもうすぐ花火が始まるらしいぞ。集中しないとな」


 俺は結衣にそういうと、花火を見るように目線を上げた。


「むぅ……。今回は勘弁してあげるよ」


 結衣は納得いってなかったみたいだけど、なんとかなったみたいだった。


 そして花火が始まる直前、カウントダウンが始まったくらいの時だった。


「ねえ、けいくん」

「うん?」


 結衣に話しかけられた。


「来年も、再来年も、ずっと一緒だよね」

「当たり前だ。ゆいが俺のことを嫌いにならない限り」

「なら安心だね」


 結衣は、ほっと安堵したように呟いた。


「いつか——」


 "バンバンバンバン"


 結衣が言い終わる前に花火が始まりなんて言ったか分からなかった。


「もう一回、言ってくれ!」


 俺は聞こえなかったので、大きな声でそう返す。


「また今度になったらね」


 結衣は、そう大きな声で返してきた。


 花火はとても綺麗で、途中からは話すこともなく、花火に魅入っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る