第38話
「それじゃあな」
「うん。楽しんでね!」
「結衣もな」
お泊まり会の日になり、聡太が来る前に結衣を見送った。
結衣が居なくなり少し経って聡太が来た。
「よう。今日からよろしくな!」
「お、来たか」
早速来た聡太に多少の挨拶をした後、家の中へと案内した。
「二人きりでこの家にいるのは珍しいな」
「確かに。いつもは結衣がいるし、有紗さんも来るもんな」
「ああ。まぁ、男だけで話せることもあるだろ」
「そうだな」
そんな他愛のない会話をしながら、家でのんびり過ごしていた。
その時に俺は確信をつくような事を訊いてみた。
「なぁ。なんでそんな表情が変わらなくなったんだ? お前の性格ならもっと笑ってそうなものなのに」
「ああ、それはな……」
少し顔を俯けていた。心なしか、悲しそうな顔をしながら。
「別に言いたくないならいいけど」
俺はそうフォローした。
「うーん……。いや言うよ。お前の過去を詳しく聞いたんだし、俺も話した方がいいだろ」
「そうか。分かった」
そう言って聡太は体をこちらに向けて、話す態勢に入った。
「俺たちは中2くらいから付き合い始めたんだ。それは言っただろ?」
「ああ」
出会ってすぐの頃くらいに言われた覚えがある。
「で、まず俺たちの出会い話すか。——俺と有紗の出会いは小四だった」
そう言って聡太は懐かしそうに遠くを見ていた。
「有紗は転校生でずっと一人だった」
「へー。意外だな。あの性格ならすぐに溶け込めただろうに」
「まぁ、あの頃は結構無口だったからな」
そしてまた、話を続けた。
「そして少し経った後、有紗が熱を出して休んだんだ。その時に『一番家が近いのは聡太だから聡太がプリント類を持っていけ』と言われたんだ」
「それまで家が近いのは気づかなかったのか?」
「まぁな。その当時は男子と遊んでばっかりで、女子なんか目に映ってないみたいな状態じゃないか?」
「——そうか?」
聡太に問いかけられた質問を少し考えてみたが、そんな事はなかったと思う。
「お前は結衣さんが居たからだろ。そんな仲良い幼馴染が居るのは珍しいからな」
「まぁ、そうなのかもな」
「そうだ」
俺が曖昧に答えた事を聡太はきっぱりと言い切った。
「話を戻すぞ」
「おう」
「それで、俺はプリントとかを持って家に行ったんだ。その時の先生に住所を教えてもらって」
「うん」
「で、普通に家に入れてもらったんだ。そこまでは良かったんだ」
「そこまでは?」
「ああ。そこで有紗の部屋に入ってみると、なんだかいつもと違う感じがしたんだ。今思ってみれば当たり前だったのかも知れないけど、学校とは全く違うかったんだ」
「違う感じ……か」
「なんとなくわかるだろ。——いやお前はわからないか。家と学校では雰囲気が全く違う。学校では大人しいイメージだったのが、家ではとても明るく元気なイメージだった」
「笑ってたのか?」
「まぁ、そんなとこだな。その笑顔を見た時に多分初恋ってやつを経験したんだろう」
「へー。有紗さんが初恋だったのか」
「まぁな」
意外だった。もっと早くに初恋は終わってるものだと思ってた。
「その日以降、俺は有紗に話しかけたりする事にした。家も近くだったし」
「ふぅん」
「まぁ、それから色々あって今付き合ってるって事だな」
「へー。でもそれと表情が変わらなくなったのと何が関係するんだ?」
「えっとな。中3の頃有紗の家で遊んでいる時があったんだ。その時に有紗のお父さんに出会ったんだ。有紗のお母さんとはよく会ってたけど、初めて顔を合わしてくらいかな」
「へー。そんなに遅かったのか?」
「少しの間、単身赴任的な事をしていたらしいんだ」
「なるほどなー」
「そこで会ったし挨拶をしとこうと思って挨拶をしたんだ。『有紗さんとお付き合いさせて頂いている山吹聡太です」って」
「そんな真面目にしたんだ」
「口調は真面目だったけど、暗いやつって思われたくなかったし、結構笑顔で言ったんだ」
「それで怒られた……と」
「ああ。『こんなヘラヘラしている奴に有紗をあげれるか!』ってな」
その時のことを話している聡太は後悔しているような顔をしていた。
「で、その日はそのまま気まずくなって別れ、まぁその後はまた遊んだりしてたんだけど」
「有紗さんは励ましそうだな」
「ああ。『気にしなくていいよ』って。でもそうもいかなかった」
「それから……か」
「ああ」
取り敢えず話し終えた聡太は机に置いてあったお茶を飲み干して、一息ついた。
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