第5話

「はぁーごちそうさま」

「ごちそうさまー」


 朝ご飯を食べ終わり、腹ごしらえが出来た俺たちは、昨日のことを話すことにした。


「じゃあそろそろ同居のことについて話すか」

「だね。未だに信じられないけど」

「じゃあ俺が聞いたことから話すぞ」

「うん」


 俺は電話で聞いたことを結衣に話した。


「えっとまず、一人じゃ心配だから一緒に住ませることにしたって言ってたな」

「私も同じだ。あと家賃もそれで安くなるって」

「うちの親も言ってたな。これまでもよく一緒に寝泊まりしてたから、大丈夫だみたいな事も言ってた」

「一緒に寝泊りしてたといっても、寧々ちゃんとかもいたしね」

「そうだな」


 寧々とは俺の妹の事だ。結衣とも仲良くやっている。


「他にも色々注意できたり、風邪ひいた時に看病できるとかも言ってたぞ」

「ウチもだよ。言うことを揃えてるね」


「そうだな。でも今まで言った事全部安いところを借りてお隣同士にしても良かったんじゃないかと思ってる」

「だよねー。そんな事すぐ考えるはずなのに……」

「あっ! そういえば」


 最後にもう一つ、言われていたんだった。


「どうしたの?」

「結衣と既成事実を作れとか言ってた気がする……」

「そうなの! ……実は私も言われてたり……」


 既成事実と聞いて一つ思いついた。ちょっと面白そうだし、結衣を驚かしてみる事に決めた。


「本当に作ってみるか?」

「え! えっ……。ちょっ」


 そう言って俺が近づくと、結衣は顔を真っ赤にして俯いた。


 少しすると、顔は赤いまま、大きくつぶらな目をうるうるとさせて、上目遣いでこちらを向いた。


「……けいくんなら、良いよ……」

「なっ!」


 思ってもいなかった返事が返ってきて、逆にこっちが動揺してしまった。

 それにそんな顔で上目遣いされたら死んじゃう。控えめに言って可愛すぎる。


「い、いや。今日はやめとこう……」

「ふーん。……ヘタレ」


 そう言って口を膨らませた結衣はプイッと顔を逸らした。


「なんとでも言え」


 悔しかったが、これ以上できる気ができなかったから、文句を言われるのは我慢する。

 冗談がまさか、こんな事にまで発展するとは思っていなかった。

 少しずつ冷静さを取り戻し、口を開いた。


「俺よりいい奴もっと居るから、そういう人に、今のことやれば良いと思うぞ」

「いや、けいくんっていい人だよ。自分を卑下しすぎだと思う」

「そうか?」

「うん」

「じゃあもうちょっと自信持ってみようかな」


 結衣がお世辞で言ってるだけな気もするけど。

 でも結衣の顔が結構真剣だったから、少し自信を持てるようにしようと思った。

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