第19話

「ショー!」


 家の中を確認していると、外からラナの声が聞こえてきた。

窓から覗くとやたら大きな荷物を抱えていた。

慌てて玄関まで行き、扉を開けると荷物を持って中に入ってきて、そのまま床に下ろした。


「この荷物は?」

「お母さんが生活に必要なものを持っていきなさいって」


荷物を覗き込むと、鍋や食器等、これから買おうと思っていたものが雑多に詰められていた。


「いやいや、そこまでしてもらおうと思ってなかったんだけど…」

「どーせそんな事言われるだろうから押し付けて来てね。って言われちゃったよ」


返品は不可のようだった。まぁでも初期費用も抑えられるし、主婦なら自分よりも必要なものが分かっているだろう。


「あ、お金は一切受け取らないからね!うちで使わなくなったものとかだから。

むしろ受け取ったりしたら、私がお母さんに怒られるんだから無しだよ!」


 先手を打たれてしまっていたようだ。やはりこの世界でも母は強しなのか・・・

漠然としていた揃える物品をある程度用意してくれた事は嬉しかった。

荷物を広げながら話し合えば、具体的に必要な物もわかるだろうと床に並べ始める。


「日用品としてこの中に無い補充するものってあるかな?」

「食料!」

「いや…それ以外で…」


予想通りというかなんというか、そんな返事をとりあえず流しつつ続ける。


「あとは消耗品の魔石とか燃料とかかな?まだ勉強するなら夜は明かりが必須になるし、季節的に寒くなることはないから、布団変わりになる大き目の布とか、水を貯めておく為の入れ物とかはあった方がいいかも。井戸は近いけど頻繁に行くのは結構重労働だよ。あとは火を起こす道具かな?魔法はまだ使えないんだよね?」


 嘘をつくのはどうかと思って、人差し指を立ててその先に火を灯す。

それを見るとラナはガックリと肩を落として小さな声で


「私なんて練習しても全然出来ないのに、たった一ヶ月くらいで・・・私だって・・・魔力が・・・それでも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 と、ブツブツと呟いていた。最後の方は全く聞こえないような声になっていた。

なんと声を掛けていいのか分からず、そのまま気まずい状態になってしまった。

数分間そのままだったろうか、突然ばっと顔をあげた。


「火を起こすのは解決!布関係のお店に先ずは行こう!」


 気持ちの切り替えが驚くほど早かったのは置いといて、良しとしとこう。自分が魔法を使えているのは体内のナノマシンのせいなのだろう。なんかマッドナノに言えば喜んで、自分以外の人の適性の変更も出来そうだったがそれを言うのはやめといた。


 荷物はそのままにして二人で商店の並んでる方へ歩いて行く。

そこは布を扱う商売をしている店が集まっていた。端切れを売っている店。中古の洋服を取り扱う店。洋服の直しを主にしている店など多種多様だった。ラナはその中でも大きめの布を主に扱っている店に入っていった。


「うーん、流石に布団として作られてるのはそれなりにするね。やっぱり藁とか敷いてその上に掛けてしばらくは過ごすのがいいかな。」


確かに値段を見てみると布単体よりも加工してあるのだと数倍の値段になっている。


「雨風はしのげるからそのまま床で寝るのでも構わないんだけどな」

「朝、身体痛くて起き上がれなくなるよ。この後、藁を少し買いにいこう」


ラナは自分の者を決めるように色々と見ていた。女性の買い物に口出ししても、碌な事にならないと思い、そのまま見守る事にした。暫くしてちょっと厚めの布を手にしてラナがこちらにきた。


「これよさそうだよ?」

「ちょっと分厚くない?それにちょっと暑そう」

「下が藁だと薄すぎると突き抜けて寝れないよ。だからこのくらい厚い方がいいよ。上に掛けるものはちょっと薄めにして調整すればなんとかなるよ」


なんとなく押し切られた感じもするが、間違った事は言ってないのは分かったので下に敷くのは決まった。上に掛けるのはほんとにただの布という感じのものにしてラナは会計で値引き交渉をしていた。


「もう一声!」

「お嬢ちゃんこれでも結構頑張ってるんだよ」

「でももう一声!!」

「わかったよ。でもこれ以上はホントに無理だからね」

「ありがと!おじさん!」


 店主はちょっと泣きが入りながらも、それなりに安くしてくれたようだ。心の中で店主のおっちゃんに謝罪と感謝を告げながら店をでた。


 ラナは値切りがうまくいったので、ニコニコと上機嫌だった。

購入したものを自分の袋に入れながらラナの方をむくとなにかを探していた。


「なんかここで買うものあるの?」

「小動物とかの魔石なら結構どこにでもお店があるんだ。ネズミとかの魔獣なら普通の人でも退治出来るからそれを売りに出してる人がいないかなと思って」


 そう言うと再びキョロキョロと探し始める。そして目的の店を見つけたのか歩き出した。

歩き出した先の方を見ると小石のようなものを売っている。他のお店の様にお店という感じではなく、道端に布を広げていくつかの袋に分別して、石を並べていた。大きさの違いによって値段が分けられているらしく値札も袋ごとに書いてあった。

 住宅用の魔石であれば専用のお店があり、家の補助制度により交換、補充などを行うが、それ以外に使う分については販売の規制などもされていない為、こうやっておこずかい稼ぎ的な感じで売られているのだという。使い道はそこまで広くなく出力も弱く、使い捨てになってしまうので値段もそれほどではない。地球での使い捨て電池程度の扱いである。


「ショーが寝る前に勉強する程度ならこの大きさかな」


 いくつかある袋の中から一つ選ぶ、大きさや質によって多少の使い道の違いはあるようだ。ラナは持った袋の中身を一通り確認すると、そのまま購入した。


「値引き交渉とかはなし?」

「うん。だいたいこういうの取ってくるのって子供が多いからそうとう酷いもの混ぜ込んで売ってなければいいの。それに自分もよく取ってきたのを売って、お菓子とか買ってたからね」


 暴れまわってたんだなという言葉は飲み込んでおいた。


「じゃあ次は藁かな?ちょっと季節的に値段が高めかもしれないけど見にいってみよ」


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