第18話

木造の家の前にくるとペナクさんは説明を始める。


「こちらはちょっと古い建物になるのですが、御覧の通り以前は大きな商家が使っていた家ですね、母屋と倉庫。あとは荷下ろし等に使っていた敷地があります。」


見てみると雑草が生えて整備はされていないが、結構広めの土地だった。


「街全体で区画整理を行ったので、こういった切れ端のような場所は後回しになっている為、設備自体も古いですが、広めの状態で残っています。いちおう簡単な柵はついているのですが」


そこでラナがスススッと顔をそらす。


「柵を越えて遊び場にする子もいるんですよね。」


ペナクさんがラナの顔を覗き込むようにして続ける。


「・・・」

「・・・」


ラナが顔をそらすペナクさんが視線の先に回りこむ。

二人は謎の攻防をしていた。


「だ、だって家の近くにこんな楽しそうな場所があったら入りたくなるじゃない!」


ペナクさんはニコニコとしていた。


「まぁ、と言う訳です。」


ラナの小さい頃の遊び場とになっていたようだ。


「では中の方も案内しましょう。」


鍵を手にして中に入っていくのについて行く。

中は今までの家と大きさ等の違いはあんまりなかった。少々痛んでいる部分はあるものの、取り敢えずで過ごすには問題なさそうだった。


「設備が旧式になるので使い勝手は違いますが、設備自体には問題ないのでこのまま使う事も出来ます。ただ魔石は先程の家では住宅用として割引が効く負担なのに対して、こちらはそういう割引対象にもなってないので自己負担分が割高になります。まぁ住宅の手当が国から一切無いという感じですかね。」

「近い内に取り壊しが決まってるのですか?」

「いえ、まだ決まってないので賃貸が可能なのです。取り壊しが決まったとしても、告知してすぐというのはありませんよ。住人の都合も配慮して猶予期間が決められますね。まだ街全体としても計画の6割から7割という感じですかね。私が現役の間に決まるかどうかって感じですよ。」

「そういえば魔石って必ず買わないといけないものなのですか?」

「そんな事はありませんよ。便利だから消費量は増えてますが、明かりは小動物の魔石をご自分で調達出来るのであれば小指の先くらいの大きさで十数時間は使えますし、魔力があれば火は問題ないですね。水は魔石でなくても、井戸まで補充しにいけば生活には問題ないですね。快適な生活とはいえないですが、昔はそれが普通でしたから。」


まぁ長い目で見れば国からの支援のある家の方がいいのかもしれないが、一時的な拠点なら充分かな。

念のため見せて貰った家のお値段を聞いてみると、やはり最初の家は新築一戸建ての賃貸位のお値段らしい、二つ目は築十数年の家族用なお値段だった。

はっきり言ってしまうとそんなに払っていたら、いつ旅になど出発できるかわかったものじゃなかった。

そしてこの家は取り壊し自体は決まってないものの、多少管理費を回収出来ればいいというお値段だった、門が近いという立地的にも、やろうと思っている事に敷地面積も問題ないくらいの広さだ。水の問題だけなら自分だけなら問題にならないだろう。


「この家を借りる事にしたいと思います。」

「かしこまりました。では契約の為に一回事務所へお願いします。」


三人でペナクさんのお店まで戻る。

必要な書類をまとめて鍵を受け取る。


「これでラナちゃんも不法侵入にならずにあそこで遊べますね」

「もうそんな歳じゃないです!」


ペナクさんはラナをからかって遊んでいた。

ラナは頬をプクッと膨らませて反論していた。


「ではなにかあれば使いのものを向かわせますのでよろしくおねがいします。ラナちゃんご両親にもよろしく伝えといてね」


二人で挨拶をして、店をでるとラナがぼやく


「昔の事なのにしっかり覚えてて。もー!」

「それだけ目立ってたってことだよ」

「三人で走り周ってただけなのにー」

「ノルンとバルも一緒だったのか…」

「気軽に外には出れないからね。三人で遊ぶときは大体あそこだったの」

「しょっちゅう遊んでたってことじゃないか?それ…」

「・・・」


スススッと先に歩いて行こうとするラナの肩をガシッと掴む。


「ぴゃい!」


ごまかそうとしていたらしい。


「まぁ生活するのに最低限の物を揃えるかな。ちょっと買い物付き合ってもらっていいかな?」

「だいじょうぶだよー」

「じゃあ一旦家にいって必要な物を確認するか」

「じゃあお母さんに伝えてから向かうよ」


ラナの家の前で別れる。

必要になりそうなものを頭の中で考えながら家に向かった。といっても思い浮かぶものといえば寝床、明かりになるもの、食器、家に着くまでに思いつくのはその程度だった。


(まぁ旅に出るまでの仮住まいだし、そこまで充実させる必要もないな。あ、火が使えればって言われたけど魔力の扱いなんてしらないじゃん。火打ち石みたいなのを買わないと)

『人差し指を立てて下さい』

(・・・)


指の上に小さい火の塊が浮いている。


(うん、解決したな)


 深く考えるのをやめて家の中を見回す。ちょっと埃っぽいが少し掃除すれば問題はなさそうだ。扉などの金属部分も錆びてはいるが、目立って壊れてる部分は無かった。

 二階部分にも上がってみる。階段は少し不安な音を立てていたが、いきなり抜けるということは無かった。二階に上がって細部を確認すると、年数相応という感じの傷んでいる部分はあるが、特に大きな問題は無かった。


(あー、木だと内部がスカスカになってる事もあるのか。見た目じゃ判別は難しいけどどうするかな?取り敢えずは太めの木の部分だけでも触って確かめといた方がいいかな)

『ナノマシンによる家全体の確認と補修もしくは補強、装飾など出来ますが行いますか』


人体に対してだけじゃないのか?いや刀の方もなんかしてたし木とかも問題ないのか。

でも住んでる間に家がぺちゃんことかは勘弁だな。やってもらっとくか。


(でも身体から離れたら生命活動に支障があるんじゃなかったっけか?)

『短時間では不可能ですが、順調に増殖が進んでいますので生命活動に支障のない範囲で割り当てる事が出来ます』


勝手に増えちゃってるよこの子・・・しかも順調にってことは更に増える気満々かよ

深く考えると頭が痛くなりそうなのでやめた。


(装飾は一切要らないから住める程度の補修と補強はやってくれ)

『了解しました』

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