第9話
この世界に来てから1週間。
日に日に体が調子良くなっているのは気のせいではなくて、体の中が調整されているからだろう。24時間体制で体の中では改善が行われているらしい。
ちなみに、頭の中で響いてくる声は人工知能を持ち合わせたナノマシンらしい。必要に応じて身体の内部を調整し、命令があればそれに従って調整が可能との事だ。取り敢えずはこの世界の環境に対する順応を最優先にして、作業を進めている所だ。
この世界は地球に比べて大気の構成、重力、生態系、植生など元地球人では、ほぼ生活は無理な環境なようだ。
そうなると一番の疑問としては保護してくれているラナという子が刀という単語を知っていた事だった。もし転移した人物がいて、それを伝えたとしたらある程度の認知度があってもよさそうなのだが、様子をみている限りはラナ以外で知っている素振りが見えないのだ。もう一つの可能性としては前世の記憶があり、その中から拾ってきたというのが濃厚だろう。
となるとこの世界には地球から転生して前世の記憶を保持している人も存在する可能性があるということだ。実際この世界の住環境は整っている。魔力による部分もあるのだろうが軽く見ただけでも、上下水道、衛生概念、馬車の構造、学習機構、食事類などだ。
この世界の努力の結晶と言ってしまえばそれまでなのだが、あまりにもちぐはぐなのだ。
まるで21世紀初頭に流行ったというライトノベルの知識チートやりました的な、個人的な知識を少し加えた状態でそれ以上の情報が無い為、完成された物として出来上がってしまい進化が止まってしまったような感じだ。
(あー。情報が足りなさ過ぎる!)
『過去の情報なら全て保持してます。』
(今は要りません。)
人の思考に勝手に入ってくるAIを黙らせてからまた思考に戻る。
(なんにしてもこの世界の言語を使えるようにならないとどうしようもないな・・・)
『この世界の言語をデータベースにした物を脳にインストール出来ます』
(やめてください・・・。)
全くこのAIは・・・
いきなり流暢にこの世界の言葉喋りだしたら人として怖すぎるだろ。
奇異の目で見られる可能性の方が高い。せめて普通の生活を送りたいんだから少しずつでいいんだよ。
ここ1週間はラナに借りた学校に行ってた時に使っていたという、教科書やらノート、あとは図書館に行き、この世界の言語と歴史などを学んでいた。ラナの時間がありそうなときは発音などを教えてもらっていた。
(発音も結構違うからなかなか発声も難しいかなー)
『この世界の発声に対応できるように身体的な最適化が終わっています。』
(・・・。)
そこの部分は問題ないようだ。なんか納得いかないけどしょうがない。
あとは魔物とかいうものに対応出来るようになっとかないとなにか始めるにしても外を出歩くのも危険が多いな。
(武器があっても戦いの心得も護身用の術も知らないんじゃどうしようもないな。ラナのお父さんなら雰囲気的に強そうだから何か武術を知っているかもしれないから、ここまで世話になってるのに心苦しいけど教えてもらうか。)
『データベースに地球の全ての武道のデータがあるので、この世界の魔力を加えて改良して、身体も強化すれば単独で世界征服も可能です。』
(そんなことしないから!!!なんでこんなに物騒なんだよ。あ、コイツもマッドか・・・)
魔王になりますか?みたいな頭の中の声に必死にツッコミをいれながら思考を戻す。
まぁある程度の身体強化みたいなのは欲しいけどしっかりと舵取りしないとコイツなにをしでかすかわからないな。一応、命令には絶対に服従みたいだけどそれだけが安心出来るとこか・・・
ある程度勉強したら食い扶持も稼げるようにしないとな。流石にこの家でずっとお世話になりっぱなしなのは迷惑だろう。お世話になった分を返せる状態と宿でも継続的に借りれるようになれるようにしないと。
(金を稼いで普通の生活出来る程度か・・・)
『ギルドというものに所属すれば、依頼の斡旋などをして報酬がもらえます。』
(有用な情報だったからいいか。)
ちなみにAIは自分より遥かに学習能力が高いので、図書館などで読めなくてパラパラめくった程度の本の内容や人が話している内容も理解した状態でデータを蓄積している。理解出来なかった場合でも音声を記録して、後から解析も可能なようだ。記録をどこにしているのかはちょっと怖いので聞いていない。必要になったら聞くと思うが、今はそのままにしている。
当面の問題は言葉の壁と稼ぐ方法か、もうちょっと時間がかかるがしょうがない。
机の上の本を閉じ、明かりを消して布団に潜り込んで眠りに着く事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます