第8話


タルトさんは書類にいくつか書き込んでいき、広げていた書類を纏めはじめる。


「とりあえずはこれで大丈夫だ。気を付けて帰れよ」

「はーい」 


ショーさんと一緒に詰所を出る。


(ノルン連れてバルのとこ行こうかな?ショーさんも紹介しといた方がいいよね。)


 そう思いノルンの家の方へ足を向けた。


 家の前に着き戸を叩くとノルンのお母さんが出てきた。


「あら、ラナちゃん。彼氏?」

「違います・・・。ノルンいます?」


 聞くと同時くらいにノルンが飛び出してくる。


「やほー、おー、昨日の人、気が付いたんだ?」


ノルンのお母さんの頭の上に?を浮かべていたので説明しようとすると


「昨日の森で拾った!」


ノルンが胸を張って言い切っていた。?は増えていた・・・


「昨日、森で狩りしてる時に倒れているのを見つけたんです」

「そうだったのね。全くこの子は・・・」


2人でため息をつきながらもバルのとこに向かう事を伝えるとノルンは奥に何かを取りにいってしまった。そして見覚えのある樽を持ってくる。


「熊の肉もらってくるねー」

「はいはい、行ってらっしゃい」


ノルンに手を引かれながらノルンのお母さんにペコっと頭を下げつつバルの家の方へ歩き出した。ノルンはショーさんの周りを回りながら観察している。


「言葉は分からなかったけど名前はショーっていうみたい」

「ショーさんか。怪我もないみたいだね。私はノルン!」


ノルンがそう言って手を出すとショーさんもそれに応じる。


「ノ…ルン」


ノルンはニコニコして頷きながら握った手を上下にブンブンと振っている。

ショーさんは苦笑しつつ振り回されている。


「ノルン。ショーさんが困ってるから、その辺でおしまい」

「はーい」


ノルンが手を離すと再び3人で歩き始めた。


「そういえばノルン、その樽って昨日の?」

「そだよー。ちょっと作り過ぎちゃったからバルに消費して貰うの」


樽を指差しながら聞いてみると案の定だった。その後もフラフラーっと匂いに釣られて行ったり、気持ちの良さそうなベンチに誘惑されるノルンの襟首を捕まえつつ、バルの家に着いた。


お店に入ると武器、防具が並べられている。

奥のカウンターにはバルのお母さんが店番をしていた。


「バルいますかー?」

「あらあら、二人とも。あの子またなんか約束忘れてるのかい?」

「違いますよーちょっと出掛けて来たのでついでです」

「あぁ、そうだったのかい。あの子なら奥の部屋にいるよ。こっから入っちゃっていいよ」


カウンターの横から入れる入り口を指差しながら言った。


「じゃあおじゃましますー」

「しまーす」


 勝手知ったる他人の家なので、バルのいる部屋へ向かう。

工房のほうでは鉄を叩く音がするので、バルのお父さんは何かを打っているのだろう。

革製品とかの加工をする部屋ではバルがなにかを作っていた。


「あれ?これ終わったら届けに行こうと思ってたんだが、どうしたんだ?」

「門にショーさんを連れて行った後にそのままノルン誘ってきちゃった。」

「あぁ、昨日森で見つけた人か。」

「そうそう。言葉は通じないんだけどそれも含めて門に報告行ってきたの。」

「他の国の人だったのか。」

「それでうちでちょっとお世話することになりました!」

「面倒見がいいというか、面白いことに首突っ込むのが好きというか・・・」


バルはちょっと呆れたような顔をしながらこちらを見る。

それから部屋を珍しそうに眺めていたショーさんに近付いていって手を出してショーさんが握り返すと


「俺はバル。よろしくな」

「バ・ル」

「おう、武器防具で困ったら聞いてくれ」


最後の言葉は流石に首を傾げていたが、名前は伝わったようだ。

こちらに向きなおすとバルは


「熊の肉なら解体終わってるからすぐ持って帰るのか?」

「バル焼いてー」


ノルンが小樽を押し付けながらが言った。


「へいへい。ちょっと準備するから庭の方で待っててくれ」


そう言うとバルは倉庫の方に行ってしまった。


3人で庭の方に出て椅子に座ってると、肉と薪を抱えてバルがやってきた。

ショーさんもそれを見て何か手伝う事がないのか探し始めたので、取り敢えず座ってもらっといた。

バルが準備をしているのをぼーっと眺めてると


「肉だけでどうしようってんだろね、この子は」


振り返るとバルのお母さんが野菜やら包丁やらまな板を持って出てきていた。

それを受け取ってお礼を述べると店番に戻って行った。


ちょっとしたバーベキューみたいになってしまった。


お腹がいっぱいになった位にバルが聞いてきた。


「ショーさんはこれからどうするんだ?」

「うちで預かることになりました!」

「だと思ったよ」

「言葉をまず覚えないと仕事もできないからね。どんな事をしたいのかもわからないし。今までなにかしてたならそれと似た仕事を探すよ」

「まぁなにか手伝える事があったら言ってくれ」


ワイワイとしたお昼ご飯を終えて片づけ中に寝そうなノルンの頬をむにーっと引っ張って起こしつつ、帰る準備をした。


(学校行ってた時のノートとか帰ったら引っ張りだしとかないとだなー。

足りなかったら図書館とかに行ってもらうしかないか・・・)


騒がしい昼食を終えて、バルの家を出るときに持てる分だけお肉を貰って家路に着いた。

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