第6話

そのマッドなサイエンティストはこの世界に見切りをつけた際に並行世界に目をつけその研究も同時に行い、繋げる技術も確立していた。しかも一応の選択肢として、この世界と別の世界を選ぶことは出来るとのこと。そして自分が出たのを確認したらここは自壊するらしい。


(あれ?選択肢おかしくね?荒廃した世界に出るか、文明があるかも分からない世界に飛ばされるか・・・どっちも未来が見えないんだが?)


ここを拠点として活動するという選択肢は用意されてないらしい。

そして数時間悩んだ末に出した答えは別の世界だった。

決意を決めた事を伝える為に、壁の映像に語りかける。


「出発しようと思うんだが、どうすればいいんだ?」

「では、こちらへどうぞ。」


その声と共に壁だと思っていた部分が上にスライドして、開いて行く。

左に赤のボタン、右に青のボタンがあり、ボタンの上に、

←異世界はこちら 現実世界はこちら→

完全にふざけてるとしか思えないような感じで書いてあった。

そして左側の壁の一部が収納のようになっており、いかにも現代では見ないような地味な布と粗い作りをした服が置いてあり、荷物は簡易な布の袋に、革袋に水が数リットルと某カロリー食のより小さい2cm角の物が数十個、あとは着替えが数日分といったところだった。

その横には棒のようなもの袋に入っており、感じ的に他の物と重さの感覚からするとショートスピア的なものだろうと思い、説明書きに目を落とす。


特に珍しい事は書いてはおらず、一応、食べ物はハイテクな物で見た目よりは栄養面でマシなくらいだった。見てもしょうがないとは思いつつ現代用の荷物の方を見てみると防護服に銃器類、大き目の鞄には計器など生きてく為に必要と思われる物が入っているらしい。


取り敢えず持てる限りの必要性のあるだろうと思われるが持てる分だけ置いてあるようだ。付近の危険生物と兵器などが暴走して近隣を徘徊しているという注意書きがあった。


(現代にしても命の危険性は変わらないという事か。)


医療用の包帯とかは任意に持ち出すのを前提で別に用意してあった。

ただ異世界行きを選んだ場合はケースは持ち出せないので中身だけ持ち出す事と、オーバーテクノロジーになりそうなものは転移の時点で消えるように設定してあるそうだ。


(なんだこの悪意に満ちた親切心は・・・)


現代の装備がある状態にも引かれたが、訓練も受けてないような人間が咄嗟に銃器を使いこなせる訳もなく、更に環境もわからないとこで練習なんてしてられないだろうと思い、頭から思考を切り離した。


そして異世界用に用意されているものに着替え、不自然なものが混じらない程度に医療品を荷物に詰め背負い肩に棒を背負った。

そしてため息をつきながら赤いボタンに手をかける。ポチっとボタンを押した感触と共に正面の壁がこの部屋に入ったように開き50センチ四方ほどの空間が現れる。不審に思いつつも中に入った所で後ろで壁が降りた。ヴィーンといった機械音が響いてきた。壁というか周りの空間自体が白い光に包まれていった。


そこまでが現代世界での記憶だった。

そして今、寝ている横には頭の上に耳のような物がある獣人?が顔を覗き込んでいる。


(覚えてる熊が現実ならこの二人は獣人ということだろうか。歳を取ってる方が男の方が親で若い女の子が娘ってかんじかな?)


精悍な顔つきの男とちょっとおっとりとしたような感じもする女の子のだった。

女の子の方がこちらへと声をかけてきた。


「xxxxxxxxxxxx?」


全くとして分かる単語は無かった。こちらの反応がないのを見て身振りで体を起こせるかどうかを確認しているようなので身を起こす。

そのあとも何度か問い掛けられるがわかる言葉はなかった。なにかを考える素振りをしたあとに女の子は男の方へ何事かを話しかけると男が部屋を出ていき見覚えのある袋と棒を持ってきた。


(そういえばいきなりあんな事になったから忘れてたな。)


その子は棒の方を差し出して来たので受け取る、持ち物を確認して欲しいという感じだろうか?ズシリとした重みがあり袋から取り出してみるとそれは刀だった。


(完全にオーバーテクノロジーに分類されかねないだろ・・・これはいいのかよ?)


驚きと呆れた感じで、もしかしたら中はただの竹光とか刃立ててないとかなどど楽観的に考えつつ、荷物の事を思い出したついでに頭の中の声の事も思い出した。刀を手に持ちつつ頭の声にも問いかけてみた。


(これはオーバーテクノロジーにならないのか?)


やはり夢ではなかったようで答えが返ってくる。


『この武器は登録された者以外は抜けないようになっております。万が一抜き身の状態で拾われたとしても本来の性能は発揮できません。』


その答えを聞きながら抜いて見ると明らかに自分が登録者だった。ちょっと抜いてふと思う。


(こんな所で抜き放ったら警戒心を持たせるだけだな・・・)


と思い慌てて鞘に戻して刀を返した。女の子は興味を引かれたようで自分と同じようにして抜こうとしてたが抜けないのを察して諦めていた。

次に衝撃的な言葉を口にした。


「カタナ」


その言葉を聞き驚く。

そして頭の中で問い掛ける。


(ここの環境に自分と同じ環境から来て生き残れる可能性は?)


『0%です』


(適応力が高かったとしたら?)


『1%に届くことはありません。』


その答えを聞きつつ女の子に問い掛けてみる。


「この世界にはカタナが存在してるのか?」


女の子は首を傾げている?ちょっとかわいいなとかいらないことを考えつつも続ける。


「君は二ホンという国はわかるかな?」


反応がなかった。


「この世界には転移者がいるのかな?」


いくつかの質問を投げかけてみるが反応が変わることは無かったので諦めた。


(まずは言葉が通じないことには、意思の疎通もままならいか。)


こちらが諦めたことを悟ったのか女の子は指を自分の方に向けながら


「xxxラナ」


なんとなく名乗っているのかと思いその言葉を繰り返してみる。


「ラ、ナ」


そうすると女の子は笑顔で頷いてくれた。思わずつられて笑顔になる。

そして自分も名乗ってみる。とそこでふと思う


(どうせ、前の世界とも関係ないし言いやすい方がいいか。)


本来の読み方なら翔と書いて「カケル」なのだが言い易いような気がしたので


「ショー」


同じように自分を指差しながら言うと、女の子も繰り返して


「ショー?」


と言ってくれたので頷いた。

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