第5話

俺は竹野翔。二度目に目を覚ました時、目の前には頭の上に大きな耳?を付けた女の子が立っていた。俺は森の中で熊に襲われて終わった訳じゃないようだ。ぼーっとする頭で周りを見渡すと、ごく普通の一般家庭の客間と言った感じだ。頭を整理しようと記憶にある事を思い出していく。熊に襲われかけて気絶する前の出来事だ。


  誰かに呼ばれた気がして意識がぼんやりと戻ってくる。眠りが一番深い時に叩き起こされた感じですぐに反応は出来なかった。時間をかけつつも少しづつ覚醒へ向かって行く。


 頭がハッキリとするにつれ、周りの違和感に気付き始める。まず布団ではなかった。混乱する頭で状況を把握しようと務める。


 そこはカプセルのような物の中で、裸のようだ。意味が分からない。身体の各所には心電図をとる時のような物が貼り付けられていた。自分がどうしてこの状態なのか全く記憶が繋がらなかった。

大事故で大怪我をして、意識が無かったのかと思い、手足の指を動かしてみるが両手足とも、異常はないようだ。他の身体の部位にも意識を向けるが、違和感はない。


 身体の怠さを感じつつ、身を起こす。目でも確認するが、特に異常はないようだ。強いて上げれば長時間寝てしまった時以上の身体の怠さだろうか?


 起き上がり周りを見るが誰もいない。ドアがあるが誰かが入って来る様子も無かった。室内は自分の意識が無いときに動いていたと思われる機器が並んでいる。


 座っていてもしょうがないので、貼り付けられた物を剥がし、身体をほぐしつつカプセルから出る。少しよろけたが筋肉がなくなって立てないとかはないようだ。


(異常値とか検出したら呼び出しがかかるものじゃないのかな?)


 未だに誰かが来るような様子もないので、ドアに手をかけてみるとすんなり開いてしまった。隣の部屋も同じような広さだったが置いてある物は違った。机やロッカー、ダンボールなど事務室のような感じであった。


 取り敢えず着る物がないかとロッカーを開けると簡素な作りの洋服があったので、それを拝借する。


(すごくシンプルだけど裸よりはマシか。)


ダンボールには水や食糧などが入っており、喉の乾きと空腹感を満たす為、いくつか取り出し机の方へ向かう。


 服を着て、お腹も膨れ、さてどうするか?と思考を巡らせる。ざっと見た感じだとドアはなく、外に出るにはどうすればいいのかは分からなかった。


 「そもそも、ここはどこなんだ?」


 水のおかげで喉が潤ったので声も出るようなので、なんとなく呟いただけだった。返事など期待した訳ではなかったが、予想外にも返事が返ってきた。


  「ここは日本の東京都☓☓区です。」


 壁だと思っていた場所に記憶にはない人物が写り返事をしていた。

その後も記憶にある自分の名前、詳細な住所など確認してみる、記憶にある自分との齟齬はないようだ。

 ただここは地下であり、出口はすぐに開けない状態らしい。


(開けないって?じゃあ俺はこのまま、ここで生活しなくちゃいけないのか?)


「すぐに開けない。ってのは入り口が埋まってるとかが理由か?」

「はい。戦争により地上の地形が変わってしまっているので、地上に出る為には、数メートル自力で掘って頂くことになります。その前に現在の大気状態に合わせた体の調整も必要となります。」


(埋まってるとかどんだけここにいたんだよ…いや、待て。戦争ってなんだ?)


記憶にない単語を出されてちょっと混乱する。

確かに生活してた時の世界情勢はギスギスしたものだったが、各国が牽制しあって、戦争に発展するような事はなかったはずだ。

「戦争っていつの事だ?」


「250年程前に始まり96年程前に終結しています。」


ますます頭が混乱した。ちょっと焦って問い掛ける


「今、西暦だと何年だ?」

「西暦計算だと2485年になります。」


混乱した頭で思い出してみる。自分の生まれたのは2022年。そして20才までの記憶はある。

そして大学生になり、彼女こそ出来なかったが友達と遊び回っていたのは覚えている。単純に計算しても年齢が450才を超えている。体を見てみるが記憶にある体とは大差ないように見える。


謎の声をだいたいまとめた感じにすると、俺は21才になる直前に酒に酔っぱらって事故にあったようだ。そして意識不明の重体になり入院。その後も目を覚ます事なく十数年入院していたらしい。


その頃、世界的な大発見があり人類は平均寿命を伸ばすことに成功し、その技術は様々な分野で発達していった。しかしその技術の発達に伴い人口は増え続け、国同士での資源の奪い合いに繋がっていった。技術力が上がり兵器も進化をしていた為、一度始まってしまえば報復による報復によりあっという間に世界大戦に発展していった。数年で世界人類は半減した。しかし始まってしまった戦争は終わることはなく、国同士は子供のような意味のない意地の張り合いで争う事をやめる事はなかった。結局、最後は軍事力の残っていた2つの国が同時に行った攻撃により世界から国という機関は消滅した。今、地上は劣悪な環境ながら生き残った人間が辛うじて残っている程度だという。つまり地上に出たとしても生き残る為には荒廃した世界を生きていくしかないという事だ。


(なんだこの詰んだ状況・・・。)


そして何故そんな時代に生き残ってるのかというと、早々に国というものに見切りをつけた両親がシェルターを作り弱っていたあらゆる国から技術を盗み、寿命を伸ばしながら好き放題に研究をしていたという。


(なにしてんだ・・・うちの両親は。)


そして意識不明だった自分は最終的には研究成果により健康な体で目覚めたと言う訳だ。


更に要約すると親はマッドサイエンティストだったって事だ。

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