第4話

頭の中に『刀』という文字が浮かんで来た。ただ生きてきた中でこんなもの見たことはなく『刀』という単語も聞いたことはない。読み方もわかるがこの国の文字で見たこともない。基本的な読み書きは学校に行っていたので出来るのだが習った事のない文字、単語に困惑する。


知識として知っているというより記憶の奥に少し残っているものが浮かんできた感じだ。


「どうした?大丈夫か?」


思考の渦に巻かれていたのかぼーっとしていたようだ。


「武器ではなさそうだけど安くはなさそうだ。この人は自分が背負っていくからこの棒はラナが背負って荷物は手分けして運ぼう。」


「う、うん。」

「だいじょーぶー?」


ぼーっとしていたのでノルンもちょっと心配そうに顔を覗き込んでくる。


「大丈夫。大丈夫。」


背負ってから気付いたがノルンの背でこれを背負ったら確実に引きずるな。なんてことを思いつつクスっとする。ちょっと見てみたいと思ったが人のもので遊んじゃダメだと思い直して荷物をまとめる。バルの分を含めてちょっと多めの荷物を背負い、棒を肩にかける。自分でも歩くと地面にこすりそうだったので肩にかける部分をちょっと調整した。


ほとんど食べ物だったノルンの荷物にも分ける。ちょっと頬をプクッとさせてるのでおそらく食べ物がなくなったので手ぶらで帰る気満々だったようだ。膨らんだ頬を指で押すとプスーっと空気が抜ける。頭を少し撫でて


「じゃあ準備出来たし、日が落ちる前に帰ろ。」

「おー」


特に不機嫌な様子もないので、なんとなく主張してみただけみたいだ。

そして来た道を戻り街に着いた頃にはそれなりの時間になっていた。


「ちょっと遅かったから心配したぞ。それでお前らは狩りにいったんだよな?」


バルの背中の人を見ながら門番さんが確認する。


「はい。」

「なんで人を背負ってるんだ?それが獲物とかはやめてくれよ。」

「そんな訳ないじゃないですか。」


ジト目で門番さんを見ながら否定する。


「行き倒れなのかな?森の中で見つけたんですよ。魔物に変わったばかりの熊に襲われそうになってました。」

「そうか。それで熊の方は?」

「退治してバルの袋です。」

「やはり魔物が増えてるか。分かった。それで、その男はどうする?」

「うちで預かってもいいですか?」


バルがちょっと困惑した顔をしてるが言葉を続ける。


「ちょっと気になることがあるので。」


ちょっと考えた感じになってしまったが、


「お前の家なら問題ないだろう。親父さんもいるしな。」

「一応特徴などを書き留めて申し送りはしとくからなにかあったら伝えるように。あとは荷物の確認だな。」


門の裏にある詰所に向かい、男の人相、特徴を書き留め、荷物を確認する。

特に違法になるような物などもなく問題なく終わった。


「意識が戻ったら聴取するから連れて来てくれ。」

「はい。」


手続きを終えて


「じゃあバル、うちまでお願い。」

「やっぱり俺かよ…」


なんとなく分かってましたよ。って顔で男を背負いうちへ向かって歩き出す。


「獲物はどうする?」

「素材になる部分は取っちゃってお肉だけよろしく!」

「美味しいとこだけよろしく!」

「へいへい。」


家に着き男を空いている部屋に下ろして寝かせ、荷物は別の部屋に置いておく。


「じゃあ解体したら持ってくるよ。」

「また明日ねー」


ノルンがブンブンと手を振りながら、バルは軽く手を上げて家に帰って行った。

歩きながらノルンは荷物をバルの袋に押し込んでいる。


「あ、落とした。」


バルが手を振り上げてノルンを追いかけている。

ノルンも楽しそうに逃げ回っている。


「今日も平常運転だ。」


クスリとしながら家に入る。


(さてとお父さんとお母さんに説明しないと。)


夕食の時間に食事をしながら経緯を説明した。

冒険者をしてた父なら他の国にも行っているし知識も多い。

なので棒のようなもの見せて頭に浮かんで来た『刀』という単語と文字を

見てもらい話を聞いてみたが、心当たりはないようだ。


夕食も終わり、寝ている男の風貌も見てもらったが特に特徴もなく分からないそうだ。

二人でうんうんと唸ってると男が目を開けた。周囲を見渡しまだぼーっとしているようだ。


「名前はわかりますか?」


声をかけてみる。反応はない。取り敢えず身を起こして貰って問い掛けてみるが首を傾げている。敵意はなさそうだ。お父さんに頼んで荷物を持ってきてもらって見せると、見覚えがあるようだった。取り敢えず棒を渡してみると中身をみてちょっとポカーンとした表情になった。


(やっぱり重要な物なのかな?)


そして紐の巻いてある部分右手でもって左手で光沢のある部分を持ち、少ししてから左手の親指でスッと円盤状の部分を押すと左右に分かれた。右手を少しずらすと刃物のような部分が見える。男は慌てて元に戻すとそれを手渡してきた。それを受け取りちょっとした好奇心で同じようにしてみるがいくら力をいれても男のように円盤部分が動く事は無かった。


仕方ないのでこれをみたときの単語を口にしてみた。男の顔が驚愕の表情になった。


「xxxカタナxxxxxxx」


カタナの部分だけ聞き取れた。首を傾げているとそのあとも言葉を選んで投げかけてきた。


「xxx二ホンxxxxxx?」


そのあとの二ホンというのも聞き取れたがなんのことだかはわからなかった。

刀と同じように頭のなかにわずかに浮かんだ感じがした程度だった。

他にもいくつかの言葉を投げかけて来ていたが、首をかしげていると男はうなだれてしまった。


そのあとも会話は全く成立しなかったので名前くらいはと思い


「私はラトルーナ。みんなにはラナって呼ばれてるわ。」


自分を指差して自己紹介をしてみた。男は一所懸命聞こうとしてるようで、人差し指を立ててしゃべってくれという感じだったので短い方がいいかなと思いもう一度ゆっくりと自己紹介してみる。


自分を指差しながら


「私はラナ」

「ラ、ナ」


大きく頷いてみる。男はそこで初めてニッコリと笑う。


そして自分を指差して


「ショー」

「ショー?」


繰り返してみると今度は男が頷いていた。名前はショーというらしい。


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