第5話4
高橋さんがしゃがんむ。少し緊張した表情でゆっくりと郵便受けの口を開け、中を覗いた。
どうですか? と俺が訪ねようとした、その時だった。
『うぁ!』
衝撃の矢が高橋さんの脳天を貫いた。
突如、高橋さんは危険回避はする猫の如く、後ろへ飛び跳ね、コンクリートの廊下の壁に背中を打ちつけた。
『高橋さん!?』
高橋さんは痛がる様子もなく、目の中の視細胞が見えるくらいに目を見開いて、怯えていた。その顔は血の気が引いて、青白くなっていた。もちろん、月光のせいではない。俺は容易にその原因が恐怖であると分かった。
高橋さんはゆっくりと人差し指をドアに向けた。いや、部屋の中にいる何かに向けたといったほうが正しいだろう。その震えた指は笑顔で天井を指したあの指とは明らかに様子が違った。
『な、何かいる』
俺は息を飲んだ。
(まさか、まさか本当にいるのか? )
俺はその銀色の郵便受けの口を見つめた。そして、そこから漏れだす引力に吸い込まれるようにしゃがみ込んだ。そして、そっと扉を指で押し開けた。
何故、開けたのか。それは科学者特有の知的好奇心というものだろうか。未だに分からない。
だが、開けてしまった。その禁断の扉を。
そして、俺は月光の下でシルエットに身を包まれた2階の住人が、今まさに衝撃音を鳴らそうと、足を踏み降ろすところを目撃した。
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