第3話 高橋作戦

 『本間くん、大丈夫?』



 『えっ?なんでですか?』



 『いや、目の隅すごいし、なんか疲れてる感じだし』



 『ああ、すみません、ちょっと寝不足で、ハハハ』



 もうすでに音が鳴り続けて、1週間が経過していた。俺は2階の住人のせいで寝不足になり、研究にも支障が出始めていた。



 『まあ、研究も大事だけど、一番大事なのは、体だから。あんまり、こん積めないで。生き抜きも大事だよ。まあ、何かあったら相談してくれよな』


 『ありがとうございます』



 (いい人だな、高橋さん)


 あれから真上の住人を特定するために何か情報を得ようと、アパートの郵便受けを見てみた。しかし、そこに名前は書いていなかった。中の書類を見てみようかとも思ったが、どの郵便受けも業者が突っ込んだチラシのせいで名前などを確認できそうな書類は見えない。チラシをとって中身を盗み見てみようと、手を伸ばした時だった。



 ぎー



 背後のドアがそっと開いた。



 気配に気づいた俺は、不審者ではなくこのアパートの住人であることをアピールするために、自分の部屋の郵便受けを探るふりをした。


そして、そっと、後ろを振り返った。


するとそこにはドアを半分開けて、真顔で俺を見つめる2つの目が光っていた。


 『あら、こんにちわ』



 『あ、こんにちわ』


 背後の部屋から出てきたのは真っ白な白髪をきれいにかきあげてセットし、エプロン姿で財布を片手に持ちどこかへ行こうとしている老婆だった。老婆は柔らかい笑顔で挨拶するとどこかへ出掛けていった。郵便受けを探るところを見られたのだろうか。老婆の笑顔の中に不審者に対する殺気みたいなものを感じ、俺の心臓は一瞬きゅんっと緊張した。


 老婆が見えなくなったあと、落ち着きを取り戻した俺は、背後の部屋が気になり、郵便受けを確認した。


 老婆が出てきたのは108号室。その部屋の郵便受けの名前を見てみると、そこには高野(大家)と書かれていた。





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