第2話 2階の住人現る?
小鳥のさえずりとともに目が覚め、いつもと変わらない朝を迎える。
ふと、昨日の音のことが気になり、朝日に照らされる白い天井に目を向ける。
(なんだったのだろうか?)
あれからぐっすり眠りについていたので、その後、天井から音が鳴ったかどうかは分からなかった。起きなかったということは多分、鳴っていないのだろう。
(まあ、2階の住人が何か、家具でも動かしていたのだろう)
(周囲を気にせずにそういう迷惑なことをするやつはいるからな)
とそのときは頭を切り替えた。
いつものようにカビだらけの風呂で朝シャンをして、昨日の夜、近くのスーパーで半額になった総菜パンを頬張る。夜用のごはんを炊くために炊飯器のタイマーを19時にセットする。隣のシンクにある食器が苦しそうに見つめてくるが、『まあ、あとでいいか』ととりあえず無視。歯をさっと磨き、動きやすい私服に着替えて、玄関を出る。 モーニングルーティン完了。
朝の冷たくなってきた空気が体に染みる。
半分履いた靴の後ろを指で引っ張って、かかとを突っ込みながら、ふと左を見ると、そこには2階に行く階段がある。
2階の住人
どんな人なのだろうと少し気になった。
引っ越しの挨拶をしたほうがいいのだろうかとも思ったが、半年ほど経っているし、夜にあんな大きな物音を立てる人だ。もしかしたら非常識な恐ろしい人物の可能性もある。
(まあ、いいか)
とりあえず、今は音の件は部屋に残し、出勤しようとしたときだった。
俺は思わず足を止めた。
がちゃっ、と、2階でドアが開く音がしたのだ。
そして、コツコツとそのまま下へ降りてくる足音が階段から聞こえてくる。俺はそのまま走って出掛けようかとも思ったが、今行けばタイミングによっては自分の姿を見られるかもしれない。昨日の今日だ。今、自分が下の住人だと思われるのは何となく気まずい感じがした俺は、急いで自宅のドアを再び開けて中に入った。そして、すぐさま振り返り、ドアの覗き穴をゆっくりと覗いた。俺の部屋はちょうどアパートの端にあり、駅方面
の道路に出るなら、俺の部屋の前の近くを通るのが近道。この際、2階の住人がどんな人なのか知っておこうと思ったのだ。
『あっ』
降りてきたのは男だった。
40代くらいの無精髭を生やした細身で、白いタンクトップに革ジャンを着ている。何故か、コンビニのビニール袋をもっており、財布やケータイらしきもののシルエットが透けて見えた。
『あいつが2階の住人か。』
俺はその見た目から、がさつそうな男だと思った。偏見混じりに、あいつなら下の住人のことを気にせずに生活しそうだなと思った。だが、その雰囲気から、注意すると逆ギレしてきたり、なんだかめんどうなことになりそうなだとも感じ、うつむいて深いため息をついた。
鉢合わせしないように、男がしっかりといなくなってから出ようと再び覗き穴を見たときだった。
『なっ』
女だ。
今度は2階から女が降りてこちらに歩いてきた。
30代くらいで、艶のある黒髪を後ろに束ね、ベージュの革のバックを肩にかけ、グレーのスーツを着ている。姿勢のよいしっかりとした足取りで歩いてきた彼女は後ろを気にしていた。やがて、彼女の背後から赤いランドセルを背負った女の子が歩いてきた。
『待って、ママ!』
スーツの女性はその女の子の母親のようだ、2人で手をつないでそのまま出掛けていった。
(そうか)
たしか、中央の階段からこちら側には部屋は4つあるんだった。つまり、あの無精髭の男が真上の2階の住人であるとは限らない。あの親子か、もう2部屋の別の人物の可能性もある。
一体、誰が真上の住人なのか。
日に日に俺はそのことを深く考えるようになっていった。
何故ならこの日からずっと、真夜中にあの音は鳴り続けるからだ。
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