第9話 人の枷を外れる時……
『願いの果実・アステリオス』
ついに実食のときが来た。俺は女神様に渡されたスプーンで果肉をすくった。
(……ッ?!)
その瞬間、まるで純金を持ったかのような重量感が伝わってきた。
そして、それをゆっくりと口元へと運んでゆき……
「……はむっ」
食べた。
溢れんばかりの果汁と、甘美で至高の甘み、時折顔を出すスッキリとした酸味が一瞬で口いっぱいに満ちていく。
美味い。
これほどに美味い果物、いや、食材は生まれて初めてだ。
「……はぁ」
俺は絶句した。
「至高」という言葉以外ですら形容できない味。それと、先代たちと意識が同化していく心地のいい安心感に……
………
……
…
「……ん? ここは?」
気がついたとき、俺は不思議な空間にいた。辺りをピンク色のモヤに包まれ、身体がフワフワするような空間に。
「よく来たね。君が童夢様の新しい弟子で間違いないかい?」
すると、誰かが声をかけてきた。
俺はそれを聞いて振り返る。
そしたら、目の前にたくさんの人がいた。
何百……いや、何千という人が全員俺の方を見ている。そしてその先頭には、一際大きな存在感を放つ男が立っていた。
「私の名は
………
……
…
――童夢side
眠ったように意識をなくすディルムッドを布団に寝かせる童夢。彼女は弟子の身体に布団を掛けながら呟く。
「ふふっ、今頃夢の中でアイツと会ってるかな。アタシの試練をたった半年でクリアした天才――依仁に」
………
……
…
「会えて嬉しいよ、ディルムッド・ゼクシア君。よくあの試練を乗り越えたね。本当にすごい……私は、君を誇りに思う」
式神 依仁と名乗る目の前の男。
彼は不思議というか……今まで感じたことのないようなオーラを纏っていた。
穏和でゆったりとした、暖かみに満ちた優しいオーラ。だが、それでいて重厚な存在感も放っている。
まるで両肩に岩を乗せられているような感覚をおぼえるほどの圧力を……
「君のことは童夢様から聞いている。確か……魔人に殺された幼馴染を助けたいんだよね?」
そんな彼が少し悲しげな表情を浮かべて問いかけてきた。
「……はい! そのために今まで修行してきたんです」
「……そっか。若いのに立派だね、君は」
俺が強めに応えると、依仁さんが少し嬉しそうに笑ったように見えた。
そして……
「承知した……実に見事な覚悟だ。やはり、君に会えてよかった。君は……この力を受け継ぐにふさわしい存在だ」
依仁さん握手を求めるように手を差し伸べてきた。それに応えるべく、俺もその手を強く握る。
「私たちの願い……全て君に託す。その願いこそが『恩恵』となり、君の力となるだろう」
すると、何千人もの人が光となって、俺の身体に流れ込むように入ってきた。
(……ッ! なんだ?! この人たちの意思なのか? すごい……! 力が……力がどんどん溢れてくるみたいだ!)
「忘れるな。私たちはいつも君と共にある。そして……必ずや魔人の王――
そう言い残したあと、依仁さんたちは消えていて、俺は、再び「御堂」で目を覚ました……
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