第8話 ワン・フォー・オール

 全ての試練を乗り越えた俺は、女神様に連れられて『ユグドラシル』を降り、再び「御堂」へと帰ってきた。


 すると、中には今まで見たことないほどに豪華なご馳走が用意されていた。


 香ばしい匂いを漂わせる焼けた肉、鮮度の高さを誇示するが如くプリっとみずみずしい刺身、色鮮やかな野菜たち。


 目に映る全てが俺の食欲を刺激する。


「す、すごい! どうしたんですかこのご馳走?」


「アタシの試練を全てクリアしたご褒美だ。遠慮せず食べな」


「……いいんですか?!」


「あぁ、腹いっぱい食べるといい。今夜は宴だ!」


「やった! ありがとうございます! いただきます!」


 そして、俺は女神様と一緒に食卓につき、料理を口へと運んでいった。


 間違いなく人生で一番美味しい晩御飯だった。腹だけでなく、心まで満たされていくようだった。



 ………

 ……

 …



「ふぅ……美味しかったぁ」


 食卓に並んでいた大皿の数々。

 これらはひとつ残らず綺麗に平らげられていた。


「ふふっ、実に気持ちのいい食べっぷりだったな。用意した甲斐があったってもんだ」


「いや〜こんなに豪華な食事初めてですよ。本当にありがとうございました!」


「うん、喜んでくれて何よりだ。なんだかアタシも嬉しいよ。だけどな、?」


 そう言うと、女神様は一度席を立った。

 そして……


「そろそろ実食といこうか……今日のメイン、『アステリオス』をな!」


 神社の鐘、あるいは鳥居ほどの大きさを誇る『アステリオス』。

 それがリンゴほどのサイズに切り分けられたものが運ばれてきた。


 それを見た俺は、つい反射的に「ガタッ」と音を立てて立ち上がってしまった。


「おぉ……これが『願いの果実・アステリオス』! なんて存在感だ……!」


 白い小皿に乗る果実。

 それから放たれる七色の光は、神々しさすら感じるほどに美しかった。


 片手に収まるほどのサイズでありながら、その存在感は圧倒的。

 二十畳はある「御堂」全体に重厚なオーラが満ちているのがハッキリと感じられる……


「よく聞けよディルムッド。この『アステリオス』には、アタシが今までに育ててきた全ての弟子たちの願いが詰まってる。その数……実に700がな」


「……なッ?!」


 女神様から聞かされた衝撃的な事実。

 俺は驚きを隠せなかった……


「700年間紡がれ続けてきた弟子たちの願い……それが『恩恵』としてキミに力を授けてくれる。

 そうすれば間違いなく、キミは人を超越した存在になるだろう」


「……ッ」


 俺はゴクリと固唾を飲み込む。

 そして、女神様に一つ問いかけられた。


「……さて、最後に一つ聞こう。

 キミには、その願いを背負う覚悟はあるか? 「を討ち、人の世に再び平和をもたらす」という願いを」


「……ッ!」


 女神様が放つピリッと張り詰めた圧力に一瞬怯まされたが、俺は応えた。


「……を倒せば、もうティアと同じ痛みを味わう人はいなくなるんですよね?」


「あぁ、もう誰も魔人になることはない。悪戯に殺されることもなくなる」


「だったら答えは一つです。

 俺は『アステリオス』を食べる! そして……必ず!」


 そして、俺がそう答えたとき、女神様が一瞬クスっと笑ったように見えた。


「……そうか、よく言った! ならば存分に味わういい! 『願いの果実』……を……」

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