第10話 黒髪お姉さんからの招待状

 依仁さんたちが消えた後、俺は不思議な空間から帰還し、元いた「御堂」の中で目覚めていた。


 その目覚めは驚くほどに気分がよかった。


 心が軽い。

 まるで誰かが見守り、支え続けてくれている。そんな安心感に満ちていた。


 身体も軽い。

 一呼吸ごとに全身の細胞に活力がみなぎる。力がどんどん溢れてくる。

 軽く拳を作るだけで、フワッと風が吹くほどに力が満ち満ちていた。


 そして、そんな俺に女神様が声をかけてきた。


「……どうやら、仕上がったみたいだな。神の恩恵――『ライジング・ホープ』、確かにキミに授けたぞ」



 ………

 ……

 …



 ――「もう、キミに教えることはない」


『ライジング・ホープ』の継承後、女神様に言われた言葉だ。


 そして、俺は今最低限の荷物と刀を引っさげ、一人輝大社を後にしようとしていた。


「それじゃあ、行ってきます」


「……あぁ、頑張ってこいよ。ティアのことも心配しなくていい。アタシが見といてやる」


 女神様に挨拶をすませ、見送られながら駆け出す俺。その顛末は、数日前に遡る……



 ―――――――――――――――――

 ――――――――――――――――



 ――数日前


「そういえば……ルキア・リュキオースって覚えてるか? その子からキミ宛のを預かってるんだ」


「え、手紙? あの時助けてくれたお姉さんからですか?」


「あぁ、まぁとりあえず見てみろよ」


 女神様から渡された白い封筒。

 俺はその中身を開封してみた。すると……



『拝啓、ディルムッド・ゼクシア様。

 貴方と出会ったあの日からもう五度目の春を迎えますが、元気にしていますか?


 さて、貴方は輝大社にて修行に励み、見事全ての試練を乗り切ったことを、先日童夢様より伺いました。


 今回この手紙を出した理由は他でもありません。貴方を、我々「対魔軍」の入隊試験に招待するためです。


 その身に「神の恩恵」を宿した貴方を我が軍に迎え入れ、仲間として共にために戦ってほしいと考えています。


 もし貴方にその気があるならば、来週の夜に「王都第一演習場」行きの列車に乗って下さいませ。


 ――敬具、ルキア・リュキオース』



 と書かれた便箋が一枚。

 そして、恐らく交通費と思われる現金1500ヤリスが同封されていた。


「……女神様、これって」


「あぁ、修行の成果を試すには絶好の機会だ。もちろん行くよな?」


「……はい!」


「よし、いい返事だ。なら早速準備しろ。をつけてやる」


 そうして、俺はまた女神様に連れられて「御堂」を出て、森の中へと入っていった。


 これから始まるのは、神の恩恵――『ライジング・ホープ』を使いこなすための実践訓練。


 今までの修行の集大成。

 魔人を滅殺し、ティアを助け、依仁さんたちの願いを成就するための、最後の特訓が、始まる……

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