第6話 願いの果実
(暖かい……痛みもない……なんだか身体も軽い……)
不思議な感覚に包まれながら、朦朧としていた意識が少しずつ回復していく。
(この子が飲ませてくれた水のおかげかな? 傷がどんどん治ってく……)
そして、意識がハッキリしたことでようやく気がついた。自分が今、誰かの生活空間の中にいることに。
一面木目に覆われた温かみのある空間。
天井から吊るされた橙色の「魔石電球」の光が、それを引き立てている。
暖炉もないもないのに暖かい。
いるだけで、すごく癒されていくような空間だ……
「ねぇ……ちょっと聞いてもいいかな?」
「なぁに、おにいちゃん?」
「ここはどこなの? ユグドラシルの中だったりするの?」
「うん、そうだよ。ここはね、『
「へぇ……君一人で?」
「ううん、おねえちゃんと一緒だよ。今は出かけてるけど、もうすぐ帰ってくるよ」
「そっか。あ、でもさ……帰りたいと思ったりしないの? それに、親御さんとか心配しない?」
俺がそう聞いた瞬間、彼女の目が少し変わったように見えた。そして、幼げでふわふわとした口調が、別人のようにハッキリとした物言いに変化した。
「……思わないよ。それに、私たちに親はいないんだ」
「え……?」
それを聞いたとき、俺はつい言葉が出なかった。そんな俺を後目に、彼女は続ける。
「でもね、家族みたいな人はいたんだよ。私たち二人を拾って、育ててくれた人が。
それでね、私たちがここに住んでるのは、その人の願いを叶えてあげたいからなの」
「……どうやったら、叶えられるの?」
恐る恐る聞いてみる。
すると……
「とある果実が必要なの。この神樹の頂上にある、『願いの果実・アステリオス』が」
………
……
…
「おにいちゃん、もう平気なの?」
「あぁ! もうすっかり元気だよ。本当にありがとう! 助かったよ!」
彼女の言葉を聞いて、いてもたってもいられなかった。気づいた時にはもう頂上目指して飛び出していた。
(あの子が欲しがってたモノ……きっと女神様が取ってこいって言ってたヤツと同じだ!)
俺の心は、登りはじめたときとは比べ物にならないくらい気合いに満ちていた。
だが、この試練は気合いだけでは到底攻略できやしない。
俺は、すぐにでもその事実に打ちのめされることになる……
………
……
…
「はぁ……! はぁ……! はぁ……!」
気合いに満ちていようとも、苦しいものは苦しい。
気合いでモノは生み出せない。
酸素だって例外じゃない。気合いだけ、真空から酸素が生まれることはない。
(苦しい……苦しい……苦しい……!)
この無酸素地獄が、瞬く間に俺を蝕んでいく。身も心も、徹底的に蝕んでいく。
(ダメだ……やっぱり苦しい! もう身体が動かせない……あぁ! もうダメだ! 挫けそう!)
やがて、湧き上がってきた気合いさえも蝕まれ、消えかかっていた。俺の心はもう、完全に折れかかっていた。
だがそんなとき……
「諦めるのか?」
倒れる俺を、誰かが叱咤するような声が聞こえてきた。そして見上げてみると、そこには白い髪の女の子が立っていた……
「立て……男がいつまでも情けない姿を晒すな。困難を前にして逃げるな、挫けるな! お前みたいなヤツは……私が男と認めない」
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