第3話 キスしてくれなきゃ死んじゃう
『略啓、
死んだ幼馴染を助けてほしいという少年をそちらに向かわせました。彼には正面から私に挑んでくる度胸があります。
対魔の戦士として幾分か見込みのある人材だと思います。不躾な頼みであることは承知していますが、どうか彼に修行をつけてやってはもらえないでしょうか?
――怱々、ルキア・リュキオース』
彼女――輝 童夢がその手紙を受け取ってからはや一年。
冬があけ、春の嵐が吹き荒れ、夏の日差しが照りつける。そして、風がだんだん冷たくなり、世は再び聖夜の時期を迎える。
「……時間か。ルキアよ、どうやらあの子はダメだったみたいだ」
だが、彼女がそう呟いたときだった。
「御堂」の戸を叩き、一回りも二回りも逞しく成長した少年が入ってきた……
「女神様……終わりました……よ」
そう言ってすぐに力尽き、床に倒れ込む彼を、童夢はその細い腕で抱きとめた。
「……キミを認める。本当によく頑張ったな」
………
……
…
「よく試練を乗り越えたな、ディルムッド・ゼクシア。約束通り、キミの幼馴染を助けてやる」
女神様はそう言って床に五芒星みたいな模様の「魔法陣」を描き、リュックからティアの亡骸を取り出すと、その上に彼女を丁寧に置いてみせた。
「今から『蘇生の儀』をやる。強い魔法を使うから、キミは少し離れてな」
彼女は俺を一旦「御堂」の外に出すと、長い詠唱を開始した。
そして……
「『神代魔法:
その声とともに強い光が外まで漏れ出してきた。視界が白み、耳に高音が響く……
するとその後すぐ、女神様が俺を呼びに来てくれた……のだが、
「よし、無事終わったよ。もう入ってきて大丈夫だ」
「ええ?! どうしたんですかソレ……」
その姿を見た俺は度肝を抜かれた。
なんと、女神様は小さくなっていたのだ。
絶世の美女そのものだった女神様。
そんな彼女は年端もいかない幼女の如く小さく縮んでしまっていた。
「術の反動だ。なにせ、死者の蘇生にはアタシの魂の一部を使うからな」
「……大丈夫、なんですか? 元に戻れるんですか?」
「あぁ、心配はいらない。2、3日あれば元通りになる。まぁそんなことはいい。『蘇生の儀』はまだ終わってない。続けるぞ」
「……は、はい!」
「ここからは死者に魔力を与える工程だ。というわけでキミ、この子にキスしろ」
「え? ええ?! キスって、そんないきなり……というかどうして」
「そりゃあ決まってるだろ。キミの魔力を口移しでこの子に注ぐためさ」
俺は女神様が言ったことを理解するのにめちゃくちゃ時間がかかった。しかし、それでも一つだけ腑に落ちないことがある。
「あの、俺は魔力を宿していませんよ?」
そう、我々「人間族」は魔力という概念を使役はできても身体に宿すことはない。だけど、彼女は問題ないと言ってくれた。
「大丈夫。キミの身体はすでに自分で魔力を生み出せる。さっき死ぬほど筋トレしただろ? 魔力ってのはそうやって作るもんなんだよ」
「へ、へぇ……あの鬼畜な試練にはそんな意図があったのか……」
確かに、俺の身体は以前に比べて明らかに活性化しているぞ感覚があった。
単純な筋トレの成果とは根本的に違う、体の奥底から力が湧いてくるような、そんな感覚が……
(でもまさか筋トレで魔力が作れるとは……)
「ほら! ぐずぐずしてないで早くキスしろ! この子の身体が朽ちてもいいのか?」
「うっ……わ、分かりました。やります、やりますよ!」
女神様に背中を叩かれた。
いよいよ覚悟を決めるときが来たようだ。
(大丈夫! 相手はティアだ。キスくらい小さい頃にしてるだろ! ……まぁほっぺにだけど)
俺はおそるおそるティアの唇に顔を近づけていく……
(うう……やっぱり緊張する! ティアももう立派な女の子の顔だ!)
だけど、いざティアを見たら緊張がMAXに跳ね上がって躊躇してしまう。
そんな俺に痺れを切らしたのか、女神様が後頭部を叩いてきた。
「……さっさとやれ! このヘタレガキめ!」
「あだッ……う、んむっ……」
その瞬間、俺とティアの唇が触れ合った。
すごく柔い感触……今までに感じたことのない甘美な感触だった……
(ティア……もう冷たくないんだな……よかった、よかった!)
ティアの唇から彼女の熱が伝わってくる。
それを感じられてすごく安堵した。涙が出そうだった。
そして、しばらくしてから唇を離す。
すると、ティアの身体がピクっと跳ねたのが見えた。
「うむ、どうやら上手く魔力を注げたみたいだな。これから彼女が目を覚ますまで根気よく続けるんだ。いいな?」
「……はい」
「よし、なら早速修行するぞ! 腕立て・腹筋・背筋を100万回、それとランニング10万キロだ!」
「ええッ?! さっき終わったばかりですよ?! もう次の試練ですか?!」
「当たり前だ。キミの仕事はとにかく魔力を作って彼女に渡すこと! 休んでるヒマなんかないぞ?」
「ひ、ひぇぇ……!!」
そして、俺は再びさっきいた森の中に飛ばされ、またトレーニング地獄が始まった……
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