第2話 幼馴染のためならオレはもしかしたら筋トレ100万回できるかもしれない
「そう……ティアちゃんが……」
出発前、俺は孤児院に寄ってお姉さんに事情を話した。ダンジョンでのこと、これからのこと……とにかく洗いざらい全部話した。
すると、彼女は意外とすんなり受け入れてくれて、「長旅になるだろうけど身体に気をつけなさい。いつでも帰ってきていいからね」と言ってくれた。
「……じゃあお姉さん、今までお世話になりました」
「ええ……ティアちゃんを頼んだわよ」
………
……
…
「あの、すみません。『輝大社』行きの列車はどれですか?」
「あー、それでしたら……」
孤児院を出た俺は、王都の中心部にある駅舎に来た。広くてよく分からないから駅員のおじさんに案内してもらった。
「あの、お客様? そのお荷物はどうされますか? よろしければ私どもで預かりますが」
そして目的の列車までたどり着くと、駅員さんにそう尋ねられた。
彼が指さしているのは、俺が背負っている大きなリュックだった。その瞬間、俺は少しビクッとしてしまった。
「あー……迷惑でなければ自分で持っておきたいんですけど、大丈夫ですか?」
「ええ、もちろん差支えありませんよ。では、私はこれにて失礼します。どうか良い旅を」
「はい、ありがとうございました!」
俺はぺこりとお辞儀をして駅員さんにお礼を言い、列車に乗り込んでから額を拭った。
(危ない危ない……中身を見られたら投獄されてたよ……)
………
……
…
「ふぅ、やっと着いた。結構長かったな」
列車を降りると、そこはすでに境内の中だった。深呼吸すると、辺りを森に囲まれた場所特有の澄んだ空気が肺に染み渡る。
王都から『輝大社』までは直通の列車がつながっていたけど、それでも一時間かかった。
そして、俺は改札を出てから気がついた。
ルキアさんが渡してくれた現金1000ヤリスがさっぱりなくなっていることに。
(なるほど……片道切符ってことか)
「生きて帰れる保証はない」
そう確信した俺は、気を引き締めなおして境内へと踏み入った。
………
……
…
境内――『輝大社』の鳥居を超えた先は、どこまで歩いても森が続いていた。
「御神木」と呼ばれる天を貫くほどに高い一本杉が生い茂り、辺りは夜を思わせるほどに薄暗かった。
影に覆われたこの深い森。
その中で唯一光を放つ「御堂」のような建物を見つけた。
(あれだな……『女神』がいるっていう場所は)
俺はそこに歩み寄り、戸を叩いてみた。
すると……
「うわっ?! なんだ……!」
引戸がひとりでに開き、中から強い光を放たれた。そして、強烈な閃光により視界が白くなり、耳にも高音が響いてきた。
意識もだんだん白んでいく……
………
……
…
「ん……ここは?」
視界が戻ってすぐに飛び込んできた光景は、やはり森だった。
だが、さっきとは違って「御堂」がなくなっていた。そして、その代わりに見えてきたのは一人の女性の姿だった。
(金髪の女性……! 間違いない! あの人だ!)
一目見ただけでそう確信した。
彼女からはそれほどのオーラを感じた。
「絶世の美女」
そんな言葉では到底表せないほどに美しい女性を見たのは初めてだ。
眩く煌めくように輝く金色の髪。
全身を包む白装束越しでも自己主張する胸元の膨らみ。チラリと見え隠れする白く細長い肢体は、息を呑むほどに流麗だった。
どこをとっても美しいの一言に尽きる。
それは、意識を吸い込まれるほどに綺麗だった。
この森の中で光を放っていたのは彼女だと、そう思わされるほどに神々しかった。
そんな彼女がこちらを振り向き、問いかけてきた。
「ルキアが言ってたのはキミか? 幼馴染を助けてほしい少年ってのは」
「あ、はい! ここに来たらティアを助けてくれるって聞いてきました!」
「……そうか、じゃあ一つ聞いていいか?」
彼女は少し沈黙を挟んでから続けた。
「キミは……私の弟子になる気はあるか?」
「え……弟子、ですか?」
「そうだ。アタシが出す試練を乗り越え、認められる覚悟はあるか?
言っておくが、弱者の願いをタダで叶えてやるほど女神ってのは甘くないぞ」
「……ッ!」
その言葉に一瞬怯まされた。
だが、すぐに持ち直して彼女に答えた。
「……やります! ティアのためなら、どんなことでも!」
「……ふむ、よく言った。なら早速試練を与える。今からここで腕立て・腹筋・背筋を2万回ずつやってみろ」
「な……ッ?! 2万回?!」
いきなり規格外な要求を突きつけられて動揺を隠せなかった。そんな俺を見て楽しむように彼女は続ける。
「明日の朝まで待っててやる。嫌ならこの話はナシだ。さぁ、どうする?」
「……や、やります! やってみせます!」
「ふふっ、そう来なくっちゃ。よし! じゃあとりあえずその子を渡しな」
「え、あ……はい!」
俺は彼女に言われた通り、背中のリュックをおろした。どうして中身が分かったのか分からず困惑したが、とりあえず手渡した。
そしてすぐに地面に手をつき、腕立て伏せを開始した。
とにかくやるしかない。
その一心で、俺はひたすら腕を動かした。
「ふふっ、そうだその意気だ。精一杯頑張るといい。ちなみに、できなかったら速攻で追い出す」
「そのときはこの子と永遠のお別れだと思え。アタシが勝手に埋葬するからな……」
すると彼女は低めにそう脅し、俺の前から姿を消した……
………
……
…
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
俺は、なんとか日が昇る前に筋トレ2万回ずつをやり終えた。すると、目の前にどこからともなく女神様が現れた。
「お〜関心関心! キミ、子供にしてはやるじゃないか。男らしくてカッコイイぞ!」
「あ、ありがとうございます……これで、俺は認めてもらえましたか?」
「おっと、それはまだ早い。なにせ、試すのは今からだからな」
「……なッ?!」
それを聞いて絶句した。
だが、そのリアクションもどうやら尚早だったみたいだ。
彼女が次に放った言葉は、もはや衝撃とかそういう次元ではなかった……
「今度はさっきのメニューを100万回ずつやってもらう。つまり、腕立て・腹筋・背筋100万回だ☆」
「キラッ!」みたいな感じで言われたが、本気でシャレにならない。
そして……
「とりあえず今回は一年待ってやる。もちろん、遅れたら問答無用で追い出すからな」
彼女はそう言い残し、再び俺の前から姿を消した……
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