第27話ですわ!



「なんなのです! 貴方達! ここはわたくし達のような貴族が通う学校ですわよ! 見たところ資格もない様子! 勝手な真似は許しませんわ!」

「なんだ? この女」

「NPCだろ? カーソルが白だ」

「そんな事は問題ではありませんわ! その方はわたくしの友人です! その汚らわしい手を離しなさい!」

「キャ、キャロライン様……」


 プレイヤーさんのお一方が肩に手を回しているご令嬢はわたくしの友人の一人なのですわ。

 だから、ついカッとなって前へ出てしまったのです。

 震えながら涙を浮かべる友人を見て、大人しくなどしていられなかったのですわ!

 彼女の腕を引っ張って、無理矢理引き離します。


「大丈夫でして?」

「キャロライン様……キャロライン様……!」

「……もう大丈夫ですわよ」


 抱き着いてきた彼女の髪を撫でる。

 そんなわたくしを庇うように、ハイル様が彼らとの間に立つ。

 プレイヤーたちはハイル様の頭上のカーソルの色を確認するとほくそ笑む。


「NPCがなんの用だ? あ?」

「おい、飯を出せよ。金なら出すからよー」

「ちょっとあんた達! ここは貴族を選択したプレイヤーや条件を満たしたプレイヤーだけが利用できる施設なのよ! それにフィールドでビッグモンスター大量発生させたのあんた達でしょ!? ふざけんじゃないわよ! やっつけるの大変だったんだからね!」

「ああん?」


 エ、エルミーさん、完全に女子です。

 うわあ、引きますわ〜……。

 ですが、仰る事はごもっともですわ!

 もっと言ってやってほしいぐらいです。

 前に出たエルミーさんに、男の一人が「お前プレイヤーか?」と問うとエルミーさんは胸を張って「そうよ!」と返します。

 ふ、普通に騙されますわね!


「へー、あの数を倒したのか。すげーすげー」

「つーかよ! お前ビギナーだろ? むしろさ! 俺たちに感謝していいぐらいじゃね? ビッグ種をあれだけ狩れる機会とか滅多にないし!」

「そうそう」

「っ!」


 な、なんて横暴な……!

 エルミーさんが強めに睨みつけてもニヤニヤとしていますわ。

 こんなマナーの悪いプレイヤーがいるなんて……。


「なんにしても一秒でも早く出て行ってくれ。先程こちらの令嬢が言った通り、ここは資格のあるプレイヤーしか利用する事はできない。聞けないというのなら、警備兵を呼ぶ事になる」


 ハイル様が厳しいお顔で彼らに強く言い放つ。

 この『警備兵を呼ぶ』とは、『カルマ値上昇』を意味する。

 今はこうして入れた学院に、彼らが二度と入れなくなるという意味でもありますわ。

 警備兵を呼ばれれば、今度から出入り可能エリアに警備兵が立ち、侵入不可となりますのよ。

 彼らにしてみれば入れた施設が入れなくなる程度なので、呼んでも問題ないと思うのですが……ハイル様は一応穏便に済ませられればとお思いなのかもしれませんわね。

 さすがこの国の王太子ですわ!

 器が大きいですわ!


「…………」

「……はあ、分かった分かった! チッ、どこもかしこもうるせーNPCばっかでマジつっまんねークソゲーだなー!」

「行こうぜ」

「ったく、マジクソゲー!」


 むむむむぅ……!

 だったらプレイしなければ良いのです!

 それに、日頃の行いが良くないから『カルマ値』が上がってNPCに警戒されるんですわ!

 ただの自業自得ですのにこちらに責任転嫁するなんて!

 それなら別なVRMMORPGで遊べば良いんですわっ!

『ディスティニー・カルマ・オンライン』よりもがっつり系のRPGはいくらでもあるのですから!


「むう……嫌な連中ですわ!」

「ほんっとほんと! なにあれチョームカつくー! 気に入らないなら別なゲームやれば良いじゃん!」

「だね。このゲーム割とソロでやるゲームだし。集団で遊ぶならもっとレイド組むのに向いてるゲームで遊べば良いのに」

「……ははぁん? そう言うって事はあんたネトゲで友達作るの苦手だなぁ?」

「うっ」


 ぐぐ、っとエイラン様に顔を近づけるエルミーさん。

 ああ、まあ、そうですわね。

 そういう方向けのゲームといっても良いかもしれません。

 あまり一人で不可能なモンスターはいないですわね。

 イベントでレイド戦はありますが、基本的に個々で戦って敵の体力を削って倒す系のレイド戦なので。

あ、特定のビッグ種はまた違いますわよ?


「…………」


 それなのに、わたくしは誰かと一緒に冒険していたのですわ。

 一体誰なのでしょう。

 姿もなにも思い出せません。


「なんにしてもひと段落だな。エイラン、協力を感謝する」

「ううん、オレの方こそ。癪だけど確かに良い狩にはなったから」

「でも感謝してやる気にはぜーんぜんなれないけど! 私!」

「それはオレだって」


 そうですわね、あの方々本当に全くもって迷惑なだけでしたわね!

 あんな迷惑なプレイヤーがいるなんて驚きです。

 自由度が高いからといっても、なにをしても良いと思われたら迷惑ですわ!


「奴らがこの辺りを拠点にしていなければ良いんだが……」

「そうですわね」


 心配そうなハイル様と目を合わせて頷き合う。

 エルミーさんは、今わたくしたちとストーリーを進めるプレイヤーさん。

 エイラン様はこの学院に編入してきたお客様。

 このお二人とも、どちらとも違う招かれざる客ですわ。

 きっとハイル様もわたくしと同じ気持ちなんですわ……。

 わたくしたちNPCは、プレイヤーさんのサポートがお仕事です。

 そんなプレイヤーさんに「クソゲー」呼ばわりされたのが悲しいのと…………わたくしたちはただ、プレイヤーさんに楽しく遊んで頂きたいだけなんですわ。

 悪役のわたくしが言うのもおかしいですけれど。

 だから悲しいのと、寂しいのと、ちょっぴり本気で悔しいのですわ……。

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