第25話ですわ!



「終わったよ!」

「ありがとうございました、エイラン様」

「ああ、おかげでビッグ種もあらかた片付いた。……まさか君があんなに強いとは」

「いや、昔取った『暗殺』スキルのおかげだよ」


 ええ、本当に驚きましたわ。

 エイラン様ってば、たった一人で五十はいたビッグ種をバッサバッサと斬り裂いてゆくのですから!

 ……あと、エルミーさんも。


「キャリーたーーーん! 私も超頑張ったよー! ご褒美ちょうだぁぁぁい!」

「ひ、ひいいぃ!」


 わたくしやハイル様のサポートがあったとはいえ、やはりエルミーさんのPSプレイヤースキルは高すぎますわ。

 他のゲームで余程遊んで来られたのか……彼女のセンスなのか……。

 駆け寄ってくるスピードも異様ですわ!

 まるで『身体強化』系のスキルを持ってるみたいではありませんかー!

 勢いが良すぎて……あと満面の笑顔なのがとにかく怖いですーーー!


「やめなよ」

「キャリー、俺の後ろへ!」

「あ、あううぅ……」


 エイラン様がエルミーさんの首根っこを掴み、ハイル様がわたくしを背後に庇ってくださいます。

 あうあう、なんて頼もしいのでしょうか!

 助かりました!

 ………………。

 いえ!

 わたくし悪役令嬢なのでヒロインに怯えるのは沽券に関わりますわよ!

 きちんと対峙して返り討ちにしなければ!


「あ、あの、ハイル様、わたくしエルミーさんにきちんと……」

「大体、美少女に叩かれたい蹴られたい罵倒されたいなんて、君さ、中身本当に女の子? ネカマなんじゃないの?」

「!?」


 エイラン様がじとりとエルミーさんを見下ろします。

 ネ、ネカマ!?

(※ネットオカマ……ネット上やゲーム内で男性がその匿名性を利用し、女性のふりをする事、またはしている人の事ですわ!)

 そ、そんな……!

 で、ですがアバターの性別はもちろん自由です!

 は、はわわわわわわわわわ……そそそその可能性は考えていませんでしたわー!


「…………」

「真顔で黙ったって事は……」

「プレイするなら可愛い女の子の方が良いだろ!」

「——————!?!?!?」

「え、本当に中の人は男?」

「バカじゃん……VRで自分のアバター女の子にしても自分からは分かんないのに……」

「そんな事ない! 走るとおっぱいが揺れる!」

「「「…………………………」」」


 ……ほ、ほ、ほ、本物のネカマ様ですわ。


「…………」

「キャ、キャリー、大丈夫か?」

「……ダ、だいじょうぶですわ……」

(キャロラインさん、ショックでかそう。全然大丈夫そうに見えないな)


 …………なんという事でしょう……。

 わたくしの運命の宿敵は……中身が殿方……。

 い、いいえ、別にプレイヤーさんがどのように遊ぶかなんてプレイヤーさんの自由ですわ。

 ええ、至って普通の事です。

 むしろハイル様との仲がどうにもこうにも進展しない理由が、よくよく理解できてしまったと申しましょうか……。

 まあ、「ですよね」と申し上げたくなると言いますか……ですよね。

 ですがわたくしこのままですとネカマ様のヒロインにハイル様を盗られて嫉妬に狂い、凶行に走る悪役令嬢になりますわね?

 ふぉあ〜〜〜〜〜〜……………………。


「……君ってこのゲームのシナリオのストーリーどの程度知ってるの?」

「はあ? 超可愛い悪役令嬢に徹底的にタダで虐められるとしか聞いてないけど?」

「その情報の出所もどうなんだろう……」

「先にプレイしてた妹情報だよ。そういうお前こそ、いい加減離せ! ……ネカマなんじゃねーの?」


 うっ、いきなり男言葉になられましたわ。

 もはやネカマ様であるという事を隠すつもりはないようですわね。

 いえ!

 それで結構!

 中身が殿方だと分かった以上、以前のように女の子のように振る舞われましてもこちらは困惑致しますわ!


「俺は普通に中も男だよ。つーか俺は男アバターなんだからネカマにはならないだろう」

「お前の方こそばっかじゃねーの! せっかくのVRでおっぱい堪能しないとか! 女体堪能しないとか!」

「…………なんで今のセクハラコードに引っかからないんだ?」


 エ、エイラン様がハイル様を見てお聞きになるのは、まあ、確かにごもっともな疑問ですわね。

 今のはセクハラコードに引っかかって音声が切れても不思議ではありません。


「プレイヤーアバターが女性だからだと思う……」


 なるほどですわ。


「ゆるいな」


 本当ですわ。


「そんなわけで改めてキャリーたん!」

「ひっ!」

「ご褒美、ご褒美ちょうだい……! お、お尻をヒールの部分がつま先の部分で食い込む感じで蹴りつけて欲しいな……! はぁはぁ」

「お、お断りしますわ!」

「悪役令嬢なんでしょ!?」

「!」


 くっ!

 た、確かに!

 でも、ですが……!


「…………」

「…………」


 そんな風に葛藤するわたくしを背後に庇うハイル様が、エイラン様と謎のアイコンタクトをなさる。

 わたくしは頭を抱えて悩んでいたのでそれに気付きませんでしたわ。

 そして、アイコンタクトを終えて頷き合ったご両名は、突然動きます。

 ハイル様がエルミーさんの肩を前から掴み、エイラン様がエルミーさんの背後に回り込むと……。


「は!? ちょ! 男がなにす——」

「グロウリアハイキック!」

「みぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁーーーーー!」


【グロウリアハイキック】

『蹴り』スキルの上位スキルの一つ。

 練度によっては一撃でビッグ種を屠る事も可能。

『格闘家』で習得できるスキルですわ。

 まあ、エイラン様は『格闘家』のスキルもお持ちでしたのね。

 …………いえ、え? 今なにを?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る