第15話ですわ!



「とにかく一度入り口に戻ろう。ボスはあのままにしておけばいいが……学院の生徒に被害が出ないように、注意喚起しないと」

「そうですわね……」


 エルミーさんを待つ、エルミーさんの援護に戻る、という選択肢をお選びにならないなんて……さすがハイル様!

 エルミーさんの事を分かっているからこその、そのお心遣い……感服ですわ。

 わたくしも見習わなければ……あら?

 わたくしが見習ったら、逆効果……?

 エルミーさんは喜んでしまいますし、んん? けれどハイル様には嫌われる……かしら?

 微妙ではない?

 なにが正解なのかさっぱり分かりませんわ。

 困りましたわ。


「待ってー! 待ってよキャリー様ー」

「!? ま、まさか……エルミーさん!? 無事にボスから逃げきれて……」


 きましたの?

 と、お聞きしようとしたわたくしの目に飛び込んできたのは、ピンクの制服がスライムが倒された時に放つ特有の液体に濡れて真っ黒になっているエルミーさん。

 ええと、え、ええ?


「な、なんだその姿は!?」

「なんだって……大きなスライムを斬ったら変な液体がブシャーって出て〜。もろかぶりしちゃったんだよね〜」

「き……」

「斬った……?」


 一拍の前。

 唖然とするわたくしたち。

 き、聞き間違いでしょうか?

『ビッグ種』を?

 斬った?


「うん? なんか変なの? 斧で一刀両断! 意外と楽勝だったよ!」

「お、斧!?」

「いえ! 普通斬ったそばから再生しますので! 一刀両断!?」


 そんなの無理ですわ!

 そんな事、『斧』の攻撃スキル+『魔法付加』スキルでもなければ!

 あるいは『斧』の上級スキル『一撃必殺系』ならば可能かとも思いますけれど……そんなのビギナーのプレイヤーさんには使えるはずもございません!


「えー? けど普通に狩れたし?」

「……っ!」


 いえ、それは……でも、この世界はレベル概念のない世界。

 PSプレイヤースキルがそれだけあるのなら……ええ、で、でも〜!?


「…………ま、魔法のスキルは覚えたのか?」

「え? まだだよ。ほんとは今日覚えようと思ったんだけど、今日は学院にキャリーたんがいなかったからやる気が起きなくて〜。友達から『魔法スキル』を覚えたらキャリーたんにぼっこんぼっこんにされる模擬戦イベントがあるって聞いてたからワクワクしてたんだけど〜」

「っ……!」


 そそそそそそそうでしたわ!

 お勉強イベントはハイル様が立ち去った後、わたくしとわたくしのお仲間NPCさんと共にヒロインに模擬戦を称して集団虐めの予定……いえいえいえいえいえいえ!

 こ、こんな! ブラックビッグスライムを一撃で倒すような方を例え集団であっても倒すなんて無理です! 無理ですわーーー!

 本来ヒロインは勝てないイベントだとしても、エルミーさん相手だと思うとわたくしの方が勝てないイベントにしか思えませんんん!

 無理、無理です〜〜!


「だから楽しみにしてたのに……キャリーたんいないんだもん。先生たちに聞いたらキャリーたんたちは今日お休みの日だって言うから〜」


 そうですわね、わたくしたちNPCはビギナーのプレイヤーさんに比べると覚えているスキルが多いので、バランスの為にお休みの日がありますわね。

 あの、ほら、このようにチュートリアル授業をせず、スキルを試しにフィールドやダンジョンに出没するプレイヤーの為に!

 プレイヤーさんが遊んでいる間、わたくしたちはやる事もないのでお休みを頂いているんですわよ。


「…………あ、あのう……以前から思っていたのですが……なぜわたくしなのでしょうか? エルミーさんに、そこまで、その、懐いて頂くような事はしていないと思いますが……」


 生卵を投げ付けたのだって、主にわたくしではありませんし。

 というかわたくしは、思い切り失敗してしまいましたし。


「え? 聞きたい?」

「え?」

「帰るぞキャリー! 変態と会話するなんて時間の無駄だ!」


 さ、さすがハイル様!

 なんてお上手に冷たくあしらわれるのでしょうか!?

 け、けれど解せないのです!

 わたくし悪役令嬢ですのに!

 ヒロインを虐めて嫌われるどころか虐められたいと付きまとわれるなんて!

 というか、最近怖くてわたくしがエルミーさんから逃げ回っているのですわ!

 悪役令嬢として、これは沽券に関わりますわ!


「ならばお答えしましょう!」


 あ、普通にお答え下さいますのね……。


「私、美少女の蔑んだ顔を見るのが大好きなの! 興奮するの!」


 …………やはりなにを仰っているのか分かりませんわ。

 あら?

 ここだけ翻訳機能がシステムエラーでも起こしているのでしょうか?


「特に嫌がる顔とか、興奮するの!」

「…………」


 ハイル様が無言でわたくしを庇うように立たれます。

 なにを仰っているのかよく分からないんですが気持ち悪い事を仰っているのは分かります。

 お、悪寒が!


「でもさ、私も女だから無理やり組み敷くとか合意のないあれそれとかは最低だって思うのよ」


 はあ。


「そして私、割と物理的に痛いのが好きだからね」


 はあ?


「それを組み合わせてみたらジャストフィットだったの」


 ……は?


「つまり、美少女が嫌がりながらも私を罵ったり詰ったり罵倒したり叩いたり蹴ったりしてくる姿が最っっっっ高にエモい!! と、いう事よ!」

「「……………………」」


 …………なるほど。

「へ、変態です!!!!」

「オッケーィ! そういうの! そういうのもっとちょうだぁぁぁい!」

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