第9話ですわ!
……一週間後。
ええ、あっという間に一週間経ってしまいましたわ。
ああ、困りましたわ、困りましたわ……一体どう致しましょう……!
ゲームのわたくし、ひどすぎますわ。
あんなの誰でも泣いてしまいますわ……考えただけで悲しい気持ちになりますわ。
あんなにひどい事をしていたら、それはもう殺されても文句言えませんわよ!
……困りましたわ、ゲームよりもひどい事をしてヒロインだけでなくハイル様にも速攻で嫌われなければなりませんのに……わたくし、あんな極悪非道な事をできるのでしょうか?
「っ……」
それに……ここ一週間毎晩のようにプレイ風景を夢に見ます。
わたくしは……NPCがバグで意思を持った、のではないのでしょうか?
……まるでわたくしが至ったその結論を「全然違う」と言わんばかりに見た事もないところを誰かと一緒に駆け、そしてモンスターと戦い、その素材で武器や防具を作っていたり、カフェで料理をしたり……とても自由に生きていましたわ。
あれはわたくしの記憶なのでしょうか?
どんなに頑張って思い出そうとしても、結局は靄がかかったようになり上手く思い出せないまま。
ええ、ここは振り出しに戻ってしまいましたわ。
せっかく自分の存在の在り方を理解できたと思いましたのに……。
今日も軽く頭痛が致しますわ……怪我は治りましたのに。
これではハイル様にまたご心配をおかけしてしまうかもしれませんわ。
……心配……?
ハイル様は、わたくしを心配なんて……。
一週間、お休みしたのにお花とお手紙が毎日届くだけで、会いに来てはくださらなかったですし……。
いえ、お花とお手紙、大変嬉しかったですけれども。
あ、そういえば、ハイル様、入学早々生徒会に入られたとお手紙に書いてありましたわ。
それにわたくしが卵を投げつけるように指示した女生徒——プレイヤーさんですわね——……の奇行が多くて、大変、とか……奇行?
「キャリーたーん」
ああ、早速わたくしを呼ぶ声が……。
あら? ですがハイル様の声ではありませんわね?
ハイル様はわたくしを家族以外でそう呼ばれる唯一の方ですが……今の声は女性……?
「キャリーたーーーん!」
「……はっ……」
ピ、ピンク色の制服と赤い髪。
あ、あの方は……!
「エ、エルミー、様?」
「様はいりません! エルミーとお呼びください!」
「っ」
なななななぜ
しかも、満面の笑みで!
なぜわたくしの手を握りますの!?
なっ、なっ、なっ、なんですのー!?
「では早速張り手をお願いします!」
「は、張り手!?」
なんの事ですのなんの事ですの!?
あ、た、確かにゲームの中のわたくしはプレイヤーさんに張り手をしているシーンがありましたけれど、でもそれここではありませんわよね、確か。
え、ええと、食事中にハイル様と一緒のテーブルにいたプレイヤーさんに嫉妬したわたくしが、ハイル様がいらっしゃるにも関わらず張り手をプレイヤーさんの頰にかますんですわよね?
ここ、校門前ですけれども〜〜!?
それに出会い頭になにゆえに張り手をご所望なのですの〜〜!
「あ、そ、そうでしたよね。先にきちんと手順を踏まないと……一週間前に済ませておければ良かったんですけど、あの時は顔が良いだけのイケメンが邪魔……んん、ハイル王子がキャリーたんを連れて行ってしまって……しかもその後一週間も放置プレ……んん、お休みなさるからもう最高にモヤったっていうか〜」
「……は、はあ?」
ところどころ不敬罪が混ざっている気がしますが、プレイヤーさんにそんなもの通用しませんからね……。
わたくしの中のキャロラインの記憶にも「不敬ですわよ!」というセリフが度々登場しますが、プレイヤーさんは基本そのセリフを皮切りに虐めに遭います。
ええ、キャロラインの常套句なんですわ。
……あ! と、いう事は今、このプレイヤーさん……ヒロイン、エルミーさんを虐めるチャンスを得たという事ではありませんか!?
なんという事でしょう!
では、わたくし頑張りますわ!
えーと、えーと……こういう場合、ゲームのキャロラインはどんな事を言ってヒロインを虐めるのでしょうか!
「では改めて最初から! 私! エルミー・ミュリーア! キャリーちゃん! 貴女の指示した『生卵流星群』、感じたわ! 私のご主人様……いえ、女王様になってください!」
「……はっ! 張り手をする以前にエルミーさんに手を握られっ放しですわ! エルミーさん、えっと、不敬ですわ! 張り手をしますので手を離して頂けませんか!」
「なるほど! 早速私のおねだりを聞いてくれるんですね! そこはちょっと焦らして欲しい気もしますが叩かれるのは望むところなので容赦なくどうぞ!」
……えっと、あら?
意外と素直に手を離して頂けるんですのね。
い、いえ、宣言してしまったからには、や、やりますわよ。
登校してくる生徒のみなさんの視線がとても気になりますけれど、ここはわたくし……悪役令嬢キャロラインがヒロイン、エルミーさんへ、権力を盾にして暴力を振るう重要なシーン、に、するのですわ!
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