第10話ですわ!
「い、いざ!」
「はい!」
「ま、参ります!」
「はい!」
「お、お、お覚悟を!」
「はい!」
「ほ、ほ、ほ、ほ、本当に、たた、叩き、ますよ!」
「はい!」
んー!
「えーい! ですわ!」
「あぁん……!」
……い、痛い……!
目を瞑ったまま叩いてしまったせいか、とても硬いところに指先が当たってしまってなんだか中指の先がとても痛いですわ……というか、どんどん痛みが増してきますわ!
これは、まさか突き指……!?
あ、あううううう〜〜!
「っ……」
そ、それに……ああああぁぁ……ひ、人様を、人様を叩いてしまいましたわ……!
な、なっ、なんて痛いのでしょうか……痛い……とても……こんなにっ……!
わたくし、なんでこんな酷い事を!
きっと痛かったはずですわ。
わたくしがこんなに痛いのですもの!
あああ、ごめんなさい、ごめんなさいプレイヤーさん……エルミーさん!
わたくし、なんて酷い事を……。
「うっ……」
「…………全然ダメです……」
「え……?」
「腰が入ってません! なんですかその軟弱な張り手は! もっと真剣に! もっと本気の全力でやってくれなきゃ! こんな張り手じゃ気持ち良くありませんよ!」
「…………………………………………」
首を傾げました。
ええと……え? わたくし怒られて……?
え、ええ、プレイヤーさんに張り手をしたのですから、怒られるのは……まあ、はい。
ですが、なんとなくわたくしが思っていた反応とは、違う……ような?
「は、はい?」
「もっとこう! ほっぺに銀杏型ができるぐらい真剣に! 本気で叩いてくださいよ! それに今のほっぺじゃなくて顎です! もしかして、張り手初めてですか?」
「……え、え……ええ……」
「やだウッソ! キャリーたんの初めてもらっちゃった……!」
「…………。…………?」
わたくしの、張り手の初めて……は、はあ?
確かにその通り……?
いえ、でもあの、なんというか……痛く、なかった? の、でしょうか?
わたくし、あんなに気合を入れて叩いたのですけれど……突き指のように指を痛めてまで頑張ったのですが……こ、効果、なし?
失敗した……!?
「まあ、初めてじゃ仕方ないですかね〜。美少女に叩いたり詰ってもらえるっていうから初めてみたけど、ふっふふふふふ……初々しく叩かれるのも、ふっふふふふ、悪くないわ〜」
「…………」
ゾワ……。
わたくしの背中を薄ら寒いものが駆け抜けます。
こ、この方はなにを仰っているのでしょうか?
なにか、なにかとても……とても、怖い!
そ、そもそもわたくし、一週間前にこの方に生卵を大量にぶつけるように指示しましたのよ?
それなのに、その後このように笑顔で話しかけてきて「張り手をして!」とは一体。
冷静に考えると異常ではありませんの!?
わたくしの次の登場はプレイヤーさんがハイル様とお食事された後のはず!
出会いイベント後プレイヤーさんが
っは! 一週間後、だからでしょうか!?
頭痛で倒れてしまったので、ストーリーに異変が!?
ですがなにがどうすればこうなりますの!?
「さあ! 気を取り直してキャリーたん! 私の頰に見事な銀杏型を……」
「キャリーから離れろ!」
「!?」
息を切らして走ってきたハイル様。
わたくしとエルミーさんの間に入り、わたくしを背に庇うようになさる。
とても焦っていて、とても険しいお顔。
え? え? な、なに? なにが起きていますの?
「大丈夫か、キャリー! 変な事を言われたり、されたりしなかったか!?」
「へ? え? え、ええ、はい……」
「おのれ、変態め……! キャロラインには近づくなと再三注意したはずだぞ!」
「へっへー、ムッリー! そんな目立つ美少女に、お尻蹴られたいとか罵られたいとか思うのはドMの本懐! これだけは譲れないわ!」
…………。
……………………。
………………………………ん?
「というわけでキャリーちゃんはこのゲームの私の女王様に認定されました。諦めてください。そして早速私を罵って〜〜!」
「……!?」
「俺の後ろへ! キャリー! 絶対に前に出るな!」
「は、はい!」
…………。
ん? え? ちょ、ど、ど、どういう状況なんですの? これ。
え? プ、プレイヤーさ……エルミーさん?
ど、どえむ?
ハイル様はまるで威嚇する猫のようですし、登校中の皆さまの眼差しはドン引きですし、エルミーさんは……ひっ……! よ、よだれを垂らしながら、じわじわと近づいて……!
「ああ、可愛い……怖がる姿もイイ……こんな美少女に怯えられながら罵られるとか超最高……! さあ、キャリーちゃん……その嫌悪感を全て私に! 全力で! 投げつけて! なんなら鞭で叩いてくれても、改めて張り手で殴ってくれてもいいよ!」
「ひ、ひぃ!」
「だ、誰か! キャリーを先に教室へ!」
「は、はい!」
「キャロライン様こちらへ!」
「は、はい……」
ハイル様が叫ぶ。
すると、狼狽えていたNPCが命令通りに動き出す。
五、六人のNPC生徒たちに囲まれ、エルミーさんの視界から遮られるようにわたくしは教室へと誘導される。
その後ろから、エルミーさんの元気の良い……そしてどこか恍惚とした声が響く。
「キャリーたーん! 私をぶって〜! 女王様〜!」
ゾワ……。
本日二度目の、寒気ですわ……!
あ、頭の中が、とても、ごちゃごちゃいたします。
教室に着いて、席に座って、お友達の令嬢NPCさんたちに囲まれ、彼女たちに口々に心配されるのですが……よく、頭に入ってきません。
わ、わたくしは、ええと……あの方を、虐めて……そしてハイル様に嫌われなければ、いけない、はず。
ですが——。
ヒ、ヒロインさんが……ドM……!?
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