第7話ですわ!



 極悪ですわ、極悪ですわ!

 ゲームのわたくしはなんて極悪非道なのでしょう!

 衝撃的すぎて目を覆いたくなります!

 い、いえ、ですが今書き出したのはゲームのキャロラインが学院を移動するプレイヤーに対して行う嫌がらせ。

 ストーリーのイベントでは、これよりももっと過激な仕返しがありましたわね。

 ええ、仕返しですわ。

 だってイベントでプレイヤーはハイル様とどんどん親しくなっていくんですもの!

 それを見て嫉妬に駆られたキャロラインが、ハイル様がプレイヤーと別れたあとに突入してプレイヤーをことごとく虐めるのですわ。

 そうですわ、わたくしの見せ場です!

 しっかり予習しておく必要がありますわ!

 昨日のように慌てない為に!


 まず出会いイベントですわね。

 出会いイベントは一昨日のはずですわ。

 ……まあ、その前にキャロラインとの出会いイベントがあるのですが……わたくし頭を強く打ち付け過ぎて気絶してしまったのですけれど……あら? という事はハイル様も一昨日、プレイヤーさんとの出会いイベントを済ませていないのかしら?

 いえ、わたくしが帰った後に出会っている可能性も……。

 けれど、昨日初対面のような感じでしたわね?

 その辺り、今度確認した方が良いでしょうか。


「ハイル様に確認するとして……」


 出会い……プレイヤーさんは階段の踊り場で前日肩がぶつかってしまったキャロラインに絡まれますわ。

 そして取り巻きのNPCに、階段から突き飛ばされますのよね。

 そこに颯爽と現れるハイル様に支え起こされるプレイヤーさん。

 ハイル様は婚約者の暴挙を謝罪して、キャロラインに注意をするのですが…………。


「……これは昨日のイベント、ですわね。わたくし、勢いのまま『生卵流星群』を許してしまいましたけれど……大体ストーリー通りだったんですわね!」


 なんという事でしょう!

 わたくしちゃんとストーリーよりも過激にプレイヤーさんを虐められていたんですわね!

 やりますわね、わたくし!

 すごいですわ、わたくし!

 良い感じのスタートですわ!


「えっと、ではこれから起きるイベントを整理しますと……」


 喜んでもいられなかったのですわ。

 ストーリーは始まったばかりですもの!

 出会いイベントの次は『ハイル様との昼食』ですわね。

 この出会いイベントの一件で、他の貴族たちに敬遠されるようになるプレイヤーさん。

 昼食も食堂で一人で食べる事になるのですわ。

 そんな彼女を見兼ねて、ハイル様がお声をかけるのですわ!

 さすがハイル様! お優しいですわ!

 ですがそのせいで放置されたキャロライン、こと、わたくしはまたもイラ!

 ハイル様との食事を終えたプレイヤーさんを呼び止め、「不敬ですわよ!」とプレイヤーさんに張り手をかまし、そのピンクの制服に水をぶちまけるのです!

 な、なんて悪役非道……!

 プレイヤーさんの制服アバターは汚れてしまうのですわ!


「よし! 次は昼食ですわね! 覚えましたわ!」


 次のイベント。

 それはお勉強イベントですわ!

 貴族の中でもプレイヤーはスキルに関して初心者!

 当然ですわね、だってゲームを始めたてのビギナーが最初にプレイするシナリオがこの王立貴族学院キャンペーンなのですから!

 言わばこのイベントはビギナー丸出しのプレイヤーさんへハイル様が手ずからこのゲームの遊び方を指南してくださるチュートリアルイベントの一つなのですわ!

 ハイル様が手取り足取り教えてくださるので、女性プレイヤーは瀕死になる事間違いなしですわよ!

 なにしろこのゲームはVRヴァーチャルリアリティなのですから!

 現実に、ええ、そこに、目の前に!

 ハイル様がいらっしゃって手取り足取り教えてくださる……ああ! 考えただけで脚腰から力が抜けてしまいますわ!

 これぞVRの醍醐味ですわよね〜!


「はっ!」


 いけませんわ、わたくしったらよだれ……淑女にあるまじき顔になっていましたわね。

 き、気を取り直して……。

 そのイベントを遠目から見ていたキャロラインは、またもハイル様がプレイヤーさんから離れた後に登場ですわ!

 ええ、魔法スキルで、背後から攻撃するのですわ!


「…………ひ、酷い……酷すぎますわ、わたくし……」


 キャロラインの魔法スキルは大した事がないのですが、ダメージは負います。

 プレイヤーさんは「わたくしも模擬戦に付き合って差し上げますわ。おーっほっほっほっ!」と笑うキャロライン一行と多勢に無勢で戦闘になるのですわ。

 当然、ビギナーのプレイヤーは勝てません。

 ええ、負けイベントですわ。

 ですが負けた事でプレイヤーはハイル様に今後も御指南頂く理由を得るのです。

 タダで起きないプレイヤーのヒロイン根性はさすがですわね。

 なんにしても、ここでもわたくしは大勝利を収めるわけですわね! 多勢に無勢だなんて大変に姑息ですけれど!


「で、このように無視や悪口、集団で取り囲んで人格否定などは、授業という名のチュートリアルや練習の戦闘の合間に起きるのですわね。プレイヤーさんが目的の移動教室に向かう時や、寮に帰る時などにランダムで絡まれる……。VRだからなかなかに厳しい思い出ですわ」


 ん? 思い出?

 いえいえ、わたくしはバグ……思い出なはずが……?

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