第6話ですわ!



「……そ、それでは呼ぶのに不便ですわ! え、ええと……では、貴女を今からフローラと呼びますわ!」

「は、はあ……。わ、分かりました」


 ……じ、自分の名前を付けられてこの反応ですの?

 あ、カーソルの上のネームが『フローラ』になりましたわ。


「…………」

「お嬢様?」


 モブ顔、といえば良いのでしょうか。

 髪は後ろにお団子にしてある黒髪黒目の女性。

 それがフローラですわ。

 いえ、それよりもフローラはなぜ自分の名前を『侍女A』と認識していたのでしょう?

 もしかしたら、これこそここがゲームの世界だという証なのかもしれませんね。

 わたくしもわたくしを『キャロライン・インヴァー』と認識しているから、それと同じなのかもしれませんわ。


「お嬢様、まずはお顔を」

「はっ! そ、そうですわね」


 まずはお水の入った桶にタオルを入れて、そのタオルでお顔を拭く。

 ふぅ、だいぶスッキリ致しましたわ。


「…………ねえ、フローラ……」

「はい、なんでございましょうか? お嬢様」

「……人を虐めるのにはどんな事が効果的なのでしょうか?」

「は、はい?」


 ゲームシナリオの時のわたくしのやっていた事は、これから書き出して実行してゆくとして、ゲーム以上の悪役になる為にはどうしたら良いのでしょう?

 わたくしはゲーム以上にハイル様に嫌われなくてはいけません。

 それも、早い段階で。


「それはあの、どなたか気に入らない方でも……?」

「ええと、そう、ですわ?」

「旦那様や大旦那様にお話になれば一発では……」

「うーん、そういうのでは……ないんですわ」


 お父様やお祖父様……いいえ、さすがのお父様やお祖父様でもプレイヤーをシナリオから追い出すのは無理ですわ。

 カーソルの上の名前が『侍女A』だったフローラが、ゲームの威力を証明しているようなものではありませんの。

 ああ、という事は、ゲームとして成り立つのでしたら、逆にわたくしがなにもしなくてもヒロインを虐めている事になるのかもしれませんわね。

 ですが、ゲーム以上に嫌われる為にはやはりゲーム以上の事をしてヒロインとハイル様に嫌われなくてはいけませんわ。

 こんなやつ、死んで当然! ぐらいに思われるように!


「……お医者様をお呼びしますか?」

「へ!? あ、そ、そういうのでもないのですわ! だ、大丈夫でしてよ!」

「そ、そうですか?」


 あ、ああ……頭を打ち付けたからおかしくなったと思われたのですわね!

 いえ、実際それが原因でバグってしまったのかもしれませんけれど。

 ……なるほど、頭を打って、それでわたくしはバグってしまったのかもしれませんわね。

 それで、ここがゲームであり、わたくしはシナリオで悪役令嬢を演じてきた。

 その記憶……いえ、記録があるから、この先の展開も知っている。

『生きている人間』は主人公プレイヤーさんだけ……。

 ハイル様もまた、わたくしと同じNPC。


「………………」

「お嬢様?」

「なんでもありませんわ。食事をお願いします」

「かしこまりました」


 フローラも、きっとNPCですわ。

 ゲームの中なのですから、お腹も本当なら空いていないのでしょう。

 食事も不用なのかもしれません。

 それでも運ばれてきた食事は温かいし、味も感じられますわ。

 プレイヤーさんもプレイヤーさんの世界でこんな風にお食事をされたり、お食事を美味しいと感じるのでしょうか?

 そうですわよね、だって、わたくしたちゲームの世界の住人は、プレイヤーさんたちの世界を基に作られているのですもの。

 ごっくん。


「……美味しかったですわ。シェフにお礼を」

「……? はい?」


 不思議な顔をされてしまいましたわ。

 これまでのわたくしはこんな風にお礼を言ったりしなかったのでしょうね。

 ええ、きっとわたくしは頭を打ってバグってしまったんですわ。

 それで『思い出した』のでしょう。

 この世界が『ディスティニー・カルマ・オンライン』というゲームの世界だと。

 きっと何度も何度もたくさんのプレイヤーさんに、わたくしは虐めを行い、そして殺されてきたのですわね。

 きっと今回も……。


 ……いいえ……。

 いいえ! 今回は一味違いますわよ!


 わたくしはゲームの中のNPCですが、ハイル様を好きという気持ちはプレイヤーさんには負けませんわ!

 ええ、ええ! 絶対負けませんわよ!

 だからこそ今回くらいはハイル様に幸せになって頂くんですわ!

 そうですわ! やっぱりわたくしが昨日出した結論は間違っていないのです!

 自分の現状を正しく理解できました(と思われます)が、わたくしの行うべき事はやはりこれですのね!

 ええ! プレイヤーさん、お待ちになっておいでなさい!

 わたくしは必ずやハイル様に嫌われてプレイヤーさんに殺されて、それでもハイル様を幸せにしてみせますわよ!

 ループしてしまっても構いませんわ!

 ハイル様にとってもとっても幸せになって頂くんです!


「そうと決まれば早速計画を立てますわよ!」


 頑張りますわ、わたくし!

 さあ、ノートを取り出して続きですわ!

 自分の立ち位置がはっきりしたら、頭もスッキリした気が致しますわ!

 これならば計画もさぞスムーズに立てられる事でしょう!

 まずやる事は……


 ①無視

 ②悪口


 ここまでは決まっておりましたわね。

 他にやる事……ゲームのわたくしがやっていたのは……


 ・魔法スキルで試験妨害。

 ・魔法スキルで移動中無意味に転ばせる。

 ・魔法スキルで食べ物や飲み物に異物混入。

 ・私物を隠す。

 ・堂々と嫌味を言う。

 ・突き飛ばして転ばせる。

 ・友人たちと取り囲んで存在否定。

 ・魔法スキルで背後から軽めの攻撃。

 ・階段から突き落とす。

 ・わざと違う移動教室を教える。

 ・孤立させる。

 ・制服を汚す。

 ・私物を汚す。

 ・頭を叩く。

 ・頰を叩く。

 ・夜会のドレスを切り裂く。

 ・飲み物をかける。

 ・男子生徒に襲わせる。


 お、思い出したのは、このくらいでしょうか。

 え、ええと、いえ、で、ですが……これは……!


「…………ご、ご、ご……極悪非道ですわ〜〜〜!?」

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