第4話「相合傘」と「おじいちゃん」
今日は雨か。
雨の日は屋上で散歩ができなくてつまらん。看護師のよし江さんはいつも微笑んで車椅子を押してくれる。老人のささやかな楽しみを奪うとは何事じゃ。
ぼんやり窓から外を見ると、青年とお嬢さんが相合傘で歩いている。そうじゃな、わしも妻とはよく相合傘をしたものじゃ。こう、歩いているとじゃな、ついつい歩き方が似てくるんじゃ。
そう思うとあの青年はいかん。お嬢さんに合わせてあげないとお嬢さんが濡れしまうではないか。あぁ、青年の肩がびしょびしょではないか。お嬢さんももう少し引っ付いてあげないと。二人ともおぼこいのう。ほっほっほ。
あぁ、今日はそろそろ疲れてきた。ちょっと早いが目をつぶっておこう。心電図の音が病室に規則正しく響いている。これも眠くなる原因かと思うんじゃが仕方ない。
おや、妻じゃないか。久しいのう。どうした、もうか。待ちわびたか。すまんな。どれわしらも相合傘で行こうか。
「202○年○月○日、◇時◇分です」
「おじいちゃーん!!!」
「まあ大往生じゃないか」
「そうね、なんだかまた起きてきそうな安らかな最後ね」
息子夫婦の後ろで、肩を濡らした孫とスカートの裾を濡らした彼女は、それぞれ握った手に力を入れた。
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