第3話「相合傘」と「彼女と僕」
「ただいま」
「お帰りー。ご飯できてるよー」
フリフリのエプロン姿で
「何か変わったことはあった?」
「えーとね、今日はね~、」
彼女は今日一日の出来事を事細かに話してくれる。隣の家の猫のこと、じゃがいものこと、お昼のメロドラマのこと。僕にはない感性だ。うざったく思う時もあるが、たいていは感心しながら相槌を打つ。
おしゃべりをしながらも晩御飯の準備は進めてくれる。
「いただきます」「いただきます」
おしゃべりは止まらない。僕の食べる手も止まらない。今日はちょっと焼き目のついたスライスされたフランスパンとハンバーグとコーンスープ。
「お、このフランスパンも焼いてくれたの?」
「うん、バゲットね。焼いたといってもホームベーカリーがあるからね。材料をポイポイ入れてスイッチPi、で完成だもん」
いや、それでも
「ごちそうさま」「ごちそうさま。おそまつさま」
芳美はさっさと食器を台所に片づける。食洗器に食器を並べてスイッチを操作している。
「じゃあ風呂に入ってくる」「はーい」
準備がいい。ご飯の後ちょっと休憩した頃合いにお風呂を沸かしてくれる。にこにこ笑って返事をしてくれた。
「寝ようか」「はい」
ベッドにもぐりこむ。芳美は隣のいつもの机に。
「そうそう、今日見ていたテレビのCMで、相合傘をしてペットショップに行くシーンがあったんだけど。そこにいた子犬がもう可愛くって! モフモフなんだよ! うちも何か飼わない?」
うーん、マンション暮らしでペット禁止なのでかわいそうだが却下だ。
「ほらうちはマンションだろ。ペット禁止なんだ。ここを追い出されたく」
「いやっ!!」
芳美はこういうキーワードに敏感だ。話を変えないと。
「今週の休みに一緒に外に出るか」
「…。うれしいけど、ね。いいの?」
「ああ」
「それに天気予報では雨のようだし」
「そうだな…。相合傘ってのも経験できるぞ」
「ありがと。でも遠慮しとくわ」
そうだった。芳美は防水が弱かった。家事ロボットだけど屋外使用は考慮されてなかったのか。いやそこまでの機能をつけてない僕が悪かった。
「ごめん」
「なーに言ってんの。ありがと。そんなマスターには一生着いていきますよ」
「はは。どっちの寿命が短いかな」
「うん。私が壊れるまで。ずっと」
そういって芳美はベッドに片手を置いて充電を始めた。かすかな機械音を聞きながら僕は眠りについた。
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