第2話「相合傘」と「彼と私」

「おーい、一緒に帰ろうよーっ! よっs」

下駄箱で彼を見つけて呼び止めようとした途端、私は抱きしめられてチューをするような恰好になった。

後ろで女子たちから黄色い声が上がる。


彼は預朱合ヨシュア。私の幼馴染だ。


「ぐふっ」

『その呼び方はやめろっつってんだろ』

目を吊り上げ、おでこをぶつけるぐらいの至近距離でドスの利いた小声で私にささやく。

右手はしっかりとボディブロー。左手は私の口を塞ぎ、うめき声が漏れないようにしている。さすが私のハニー、よくわかっている。

後ろから見るとハグされてチューしているように見えるが、こんな仕打ちを受けているのよ笑。きっつ。


「毎日毎日飽きねぇな」

「だってヨッシーはヨッシーぐっ」

脇腹にエルボー連打は地味に効く。


「で、どうした?」

「こんな雨でしょ。朝は降っていなかったから傘を持ってきてなさそうだし、私の傘に入れあげないこともないわーって、相合傘じゃんwww。うひょーこっずかしいwww」

「は?」


彼は左手をあげて『リフレクト』とつぶやいた。

そう。彼は勇者候補。真の勇者になるべく学校に通っている。そして私は聖女候補。


「雨ごときにリフレクトなんて」

「いいじゃん。俺はMPが多いし、毎日使い切らないと鍛錬にならないし」

ジト目で抗議するも涼しい顔で返される。


7歳にジョブを授かる儀式で、ヨッシーは勇者、私は聖女になった。候補だけど。

それからヨッシーは魔王と戦えや全人類を救えや、勇者様勇者様とおべっか使いの大人たちに囲まれて、病んでしまった。私が慰めても笑顔を見せなくなった。そんなのやだ。ヨッシーはいつでも笑っていてほしい。そりゃ魔王には勝ってほしいけど、何でもないときはいつものヨッシーでいてほしい。

それから私は変わった。ヨッシーの横に立てるように聖女としての訓練も頑張った。ヨッシーの重荷を分かち合えるように。ちょっとは成長したかな?


「ヨッシー、いつでも一緒よーwww」

「俺の自由はどこだー」

「ないwww。はい、傘」

「ちぇー、しゃーねーなー」

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