第五話 僕の能力と彼女の言葉と夏休みの予定の報告をします

「君が詩を詠うことには驚きだけれど、僕、別にそんな才能ないよ、一応言うけれど」

「私とはなしているからあるのだよ」

「うーん、根拠が曖昧…」

 ん?あれ、何かがおかしい。

「待ってくれ、君が詩を詠えるなら、僕が詩を詠えなくてもいいなら、僕にどうしてあんな質問したんだ?」

 ちなみに再度言うが、僕の両目は彼女の両手によって覆われたままである。

「このせかいにいきるものはすべて詩をうたうからさ」

 おうおう、急にファンタジックになったぞ。

「 『 さへぎるものもない 光のなかで

 おまへは 僕は 生きてゐる

 ここがすべてだ!……僕らのせまい身のまはりに』」

「急に何!?」

「そのままのいみさ。そのままかんじよ。それが詩だ」

「はぁ……いいかげん、手をどかしてくれないかな」

「おっと、これはすまない。わすれていたよ」

 さぁ、と少女は僕の目を覆っていた手を外した。長かった…、一体何文字消費したと思ってるんだ。

「『さへぎるもののない光のなか』だ」

 途端に視界がひらけ、彼女のいう通り、さへぎるもののない世界が広がる。

 しゃりゃん。きゃりん。光がさしこむ。目に光彩がささる。わずかな痛みと、なごやかな潮風。慣れ親しんだ海の香。まぼやかな枠組みにはめられ、優しく感じるまばたきを繰り返し、目が光に慣れだし、ようやく世界が僕にささやく。ここがすべてだ、と。ここがおまへの生きる、せまい世界なのだ、と。

「は、なにこれ」

「えっへん、私のめにくるいなしだろう」

 おかしい。

「おっと、もうこんなじかんか。ゆうぐれをとおりこして、もうひがおちはじめている」

 少女は、僕の目を解放した後、腰に手持ち無沙汰になった両手をつけるようにして言った。が、それはおかしいのだ。どう考えても、僕が彼女と話していた時間は、1時間に満たないはずだ。彼女は、日が落ちはじめている、といった。しかし、僕が家を出たのは、(第二話を見てくれ)なのだ。

ここの時間の流れは違う、ということだろうか。それともうひとつ。

僕が目が痛い、と思ったのは、太陽の光が直接目に入ったからである。しかし、いくら入ったばかりとはいえ、ここは、塔の中のはずなのだ。ドアを開けたままだった気はするが、だからといって、目が眩むほど光が入るだろうか。

いや、そもそも、このバス停自体、僕が望むような、非現実的な、不思議ななにかなのだろうから、すこしくらいおかしいことが起きても当たり前なのかもしれないが。

「よぉし、私のめがたしかだということもしょうめいされたわけだし」

「いや、僕がすごいってことじゃないのかよ」

「あ、さっきの詩は立原道造のものだよ」

「聞いてないし」

「なんだ、私のもっともすきなしじんだぞ」

「へーそうなのかー(棒)」

「『夢みたものは ひとつの幸福

 ねがつたものは ひとつの愛』」

「それなんなんだ?」

「ん?これも彼の詞さ。……なんだ少年、きょうみがあるのか?」

「いや、別に…」

「そうかそうか!私はとてもうれしいぞ。彼の詞はほんとうに………………………」

「?どうしたんだ?」

また長々と語られるのかと思ったが、少女は口をはぷかふとしているだけだった。

「と、とにかく、私のもっともすきなしじんなんだ」

それはさっきも言ったぞ、と言いかけたが、やめた。少女が自分自身も訳が分からないようで、首をひねっているのだから。

「そ、そうだ、さっきの詩のことだが、あれは『夢みたものは……』という詩で、立原道造のものでも私がいちばんすきな詩なんだ」

「へぇ、全然知らないな」

「なっ、少年、もしや、君、詩をよまないのか?自分で、詩をよむことをしないのか?」

「え、ああ、読まないね。教科書で読んだことはあるけれど、自分でわざわざ読むことは無いな」

「な、なんということを……!君、それだけのちからがありながら詩をよまないというのか……!」

「いや、だから、僕にはそんな力ないって」

「…もったいない。さながら、私にとっても、詩にとってもぼうとくにあたいするぞ」

「なんでだよ」

「詩をよむかよまないか、はたしかにこじんがきめることだ。だが、ほんとうにもったいない。君なら、このせかいの詩を、しんによみとることができ、しじんとはなすことができ、さらにだれかにつたえられる。きみはいきているかちがある」

「…………………」

驚いた。こんな少女にそんなことを言われるとは。僕とそう歳も変わらないであろう少女に。『生きている価値がある』、だなんて。

「少年!どうせひまだろう?ひまだろう!?ひまだろう!」

「暇の押し売りがすごい」

「えへへ、」

「なんで照れてんだよ」

「とにかく!ひまなんだから!まいにちここにきたまえ!」

「は?」

「私が、この詩にあいされしてんさいたるこの私が、じきじきに、君に詩をおしえてあげよう!私はおおくの詩をしっているからな!あ、いちぶだけでもいいぞ!とにかくあしたからここにくること!いいな!」

「えー………」

まぁ、夏休み、どうせ暇だったし、いっか。こうして、僕は夏休み中、毎日、このバス停にくることになった。あれ、バス来てない。僕の異世界に行ける御話はどこに?あ、でも、なんかこの、怒涛の展開は、ラノベっぽいから、これから何か起きるかもしれない。

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