第三話 とりあえず行動するのはやっぱりやめた方がいいのかもしれないが、この出逢いはなかなかに刺激を与えてくれそうだ
塔の目の前に来ると、本当に壁が真っ白なことが改めて分かる。新しいのだろうか、いや、だとしたら、僕があの話を聞いたことがあるのがおかしい。オレンジの屋根とカラフルなステンドグラス、そして、真っ白な壁。綺麗だが、どこかかなしいような感覚を覚えた。待合所とかかれた看板の裏には何もなかった。てっきりバスの時刻表があるものだとおもっていたけれど、そう簡単には行かせてもらえないらしい。しかたがないので、塔の中に入ってみよう。
塔を一周して見つけた木のドアを開け(鍵はしまっていなかった)、僕は、思わず息をのんだ。そこには、驚くべき光景が広がっていたのだ!
…とかいうオチがよくあるが、残念ながら、そんなに上手く物語は進まないものである。そこには、何もなかった。いや、何もなかったというのは正確には間違っている。そこには、螺旋階段があった。それだけ。ほかには何もない。真っ白な壁、真っ白な床。だが、ここには、それだけで十分だった。いろとりどりのステンドグラスから出た、美しい光が、真っ白な壁を、床を、階段を、そして、僕を、照らしているのだから。オレンジ色の光は、ステンドグラスを通り、屈折し、世界の中心のように、交わりあい、二つの影をつくっている。…二つの。…二つの?
「『夢みたものは ひとつの幸福
ねがつたものは ひとつの愛』」
その人は、後ろから急に声が聞こえて驚く僕に、気づきもしないように続けて言った。いや、語った。
「やぁやぁ、しょうねん。こんなところになんのようかな。ちなみに私はあそびにきたわけではまったくないのだよ。君はどうなのかはしらないけれど。そういえば、これは私のともだちのはなしなのだが、私ではないぞ、ほんとうだとも、えっと、なんだったかわすれてしまったな、すまない、すまない。ああ、そういえば、君は、かみをとかすかい?とかすだろう。いや、そんなにぼさぼさではわからないな。…しつれいした。まったくしつれいだったね。私としたことが。おぶらーとをわすれていたよ、あっはっは。あれだろ、あの、そとのひつじにかみをくわれたとか、そういうやつだろ、私のよそうはあたるとひょうばんなんだ。もっとも、私のなかで、だが。じゃなかった、そう、君はかみをとかすとき、どんなひょうげんをする?私としては、なめらかにうらごしするように、をおすね。どうだい?ぴったりだろう。私はかみをとかすたいぷのひとだよ、ちなみに。そう、なめらかにね。私はなにかたべものをつくったことはないのだけれど、うらごしするってなんだかなめらかなかんじがするよな。なめらかにうらごしするように、は、なめらかをなめらかななめらかにするようなかんじがする。かみはなめらかってひょうげんすることはなかなかないけれど、けっしてまちがいではないと私はおもうのだ、」
「おい待て」
ずいぶんときゃらのこいじんぶつだな。ふつうにつっこみがおいつかねぇよ。
危ない、僕まで彼女と同じ状態になるところだった。なんだか彼女は全てひらがなだと分かる話し方をする。かろうじて「私」と「君」だけ漢字な気がするけれど。すげぇ、逆にどうやったらできるんだ。僕には、彼女のようなひらがならしい話し方(?)は、到底できそうにない、一生できそうにない、というか、教えられてもできないな、たぶん。
「、よ、?」
「僕は遊びに来たわけじゃない。君はどうなのかは知らないけれど。あと、君が忘れたらしい友達の話は絶対君の話だし、すまないに申し訳なさの破片すらなかったぞ!結局オブラート忘れてるしな、全然包めてなかったよ!あと、僕別に羊に食われてないから、髪とかしてないだけだから!予想思いっきりはずれてるよ、羊と触れあってたよ、ふれあい広場並にな!」
久しぶりにこんなに話した。
「『ゆやーんゆよーんゆやゆよーん』」
「ただ、なめらかに裏ごしする、って表現は悪くないと思う」
「わをん」
「は?」
だめだ、この子よく分からない。とりあえず、後ろ振り返ってみよう。と思ったら、両手で目隠しされた。
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