第46話

「十朱にはさぁ、俺がいるからいいじゃない?」


 伊能君はそう言うと、真っ赤に頬を染める十朱君を見つめた。


「お、鬼に喰われるのは厭だよ」


「なにそれ?」


 伊能君は可笑しそうに笑うと、窓の下の校庭に視線を落とした。

 校庭には大勢の学生達が、サッカーをしたり鬼ごっこをしたり……お喋りしたり。明るい日差しを受けて楽しそうだ。


 そして学級委員の町田さんと目が合って、伊能君は微笑んで手を振った。


「なに?伊能君」


「町田さん」


 伊能君は、まだ手を振って笑っている。


「町田さん?」


 十朱君は窓から校庭を眺めて、目を凝らして言った。


「分からなかったら、それでいいよ」


 伊能君は視線を十朱君に向けて、教室で向かい合って笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る