第30話

 伊能君と一緒に帰ると、それは大変だ。

 伊能君を見つけた上級生が、なんだか色めき立って声をかけて来るからだ。

 それは校舎を出て学校を出てからもあって、知らない他校の生徒やら、知らない男性からもやたらとお声がかかる。

 その都度伊能君は


「吹っ飛ばされたいの?」


 と、可愛い過ぎるドスの効いた、鋭い眼差しで相手を威圧、威嚇する。


「い、伊能君て同性にモテるんだね?」


「学ランじゃなくても、男子制服姿なのにな」


 伊能君は物凄ーく気を悪くした様に、学生服の紺色のネクタイを緩めて言った。


「さ、さすがに、女子生徒とは思っていないと思うよ」


「当たり前じゃん」


 なんとも冷ややかな声音が返って来て、ちょっと気弱な十朱君は身を縮めてしまった。

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