桃太郎が外出自粛してれば、きっと世界は平和になる

ちびまるフォイ

家にいるだけで鬼を倒せるか

むかし、むかし、あるところにおじいさんとおばあさんが暮らしていました。



おじいさんは山へ芝刈りへ、

行くことはできませんでした。


不要不急の外出は自粛要請が出ているからです。



おばあさんは川へ洗濯へ、

行くことももちろんできませんでした。


川には人が集まりやすいため、自粛要請が出ています。



おじいさんとおばあさんは家にこもっていました。



すると、川の上流からどんぶらこどんぶらこと大きな桃が流れてきました。



桃は上流から、中流へ。


中流から下流へ。



誰に拾われることもなく、そのまま滝つぼへと落ちていきました。

外出自粛の要請が出ているからです。



おじいさんとおばあさんがエンドレスきびだんごを作っているとき、

滝つぼに落ちた桃はその衝撃で中が開いて男の子が生まれました。


生まれた瞬間に溺れるという生命の危機を脱した男の子は強く育ち、

自分で自分のことを桃から生まれた桃太郎だと自称しました。

けれど、彼の名前を知ることは誰もいません。


外出自粛の要請が出ているからです。



外出自粛の要請が出ていない草むらからイヌが飛び出しました。


「わんわん!」


なぜかきびだんごに対して並々ならぬ中毒性を覚えさせられていたイヌですが、誰からもきびだんごをもらえることなく家に帰りました。

外出自粛の要請が出ているからです。



森では猿が、山ではキジが出ましたがきびだんごを持った人は誰も通りませんでした。

外出自粛の要請が出ているからです。



一方、自宅待機の時間つぶしに筋トレをし続けた桃太郎はいつしか村一番の力持ちとなりました。


この筋肉を存分に振るう場所を探して、ついに見つけたのです。


「ようし、鬼ヶ島へ鬼を退治しに行こう!!」


しかし、桃太郎は家でおとなしくしていることにしました。

今すぐ鬼を征伐するほどの緊急性はなく、外出自粛の要請が出ているからです。



その頃、鬼ヶ島はというと村のほうから人の気配が消えていることに驚いていました。


「最近、人間どもはいったいなにをしているんだ」

「前は鬼ヶ島に乗り込もうとする命知らずがいっぱいいたのに」

「そんなことよりおなかがすいたよ」


鬼ヶ島は人間からの報復に備えるために絶海の孤島に浮かんでいます。

食料は乗り込んでくる人間などを狩っていたものですが、それもなくなり備蓄も底を付きそうです。

外出自粛の要請が出ていたからです。


「人間の里で食料をたくさんとってきてやるぜ」


「おい、外出自粛の要請が出ているだろ!」


「外出自粛におびえて鬼が務まるか! おい、船を出せ!」


鬼たちは金棒を担いで人間の里へと向かいました。

かつて人間を襲って金品をぶんどった時の興奮と記憶が蘇ります。




それからしばらくしても、鬼は戻ってきませんでした。


「あいつら、いつになったら帰ってくるんだ。こっちは腹ペコで死にそうだ」


「もう我慢ならねぇ! ちょっと外の様子を見てきやす!」


鬼ヶ島の外へ出た鬼はひとり、またひとりと数を減らしていきました。

最後の1匹になった赤鬼はついに悟りました。


「これが……外出自粛の効果か……!?」



鬼たちはまだ気づいていなかったのです。


かつて、人間に対して略奪と蹂躙の限りをしていたときとは状況が違っていることに。


昔は里に歩いている人間をとっ捕まえることもでき、

男出が不在の民家に押し入って金品を奪うことだってできました。


しかし、今はどうでしょう。


仕事に出ているはずの屈強な若者たちは自宅待機しており、

民家に押し入ったが最後、鬼一匹に対しての総力戦になってしまいます。

鬼対策に罠が仕掛けられている可能性だってあります。


外出自粛の要請が出ていたからです。




やがて、鬼ヶ島の鬼がすべて死に絶え、奪われた財宝は海に沈み、里へ漂着した金品は村の人々の手に戻りました。


めでたしめでたし。

#stay home






次回「シンデレラ、お城の舞踏会中止で自宅待機」をお送りします。

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