第3話

 アナウンスで視界がフェードアウトして、小屋の中に戻った。

 「畑仕事が終了しました」というアナウンスで小屋の中に戻されるということは、外を自由に歩き回ることは出来ないということか。

 すぐ近く、切り株そのものの椅子には、座っているリーフの姿がある。少し離れているから、上目遣いにはなっていない。

 惜しい。

 ステータスを見ると筋力と体力、愛情が少し上がっていた。しかし体調のウィンドウには疲労と空腹の文字がある。


 畑仕事の前は立っていたリーフが座っているのは、疲労だからだろうか。困った。疲れない作業ってなんだろう。

 行動選択のウィンドウを見ると、さっきもあった五つの選択肢の他に『休憩』の文字がある。

 これは丁度良い。増えたのは疲労状態になったからか。都合が良いことは確かなので、椅子に座ったまま、俺を見て「私は何をするの」と言っているリーフに『休憩』を選択する。


「わかった。『休憩』をします。ロックはどうするの?」


 リーフの言葉で再びウィンドウが開く。選択肢は前と同じ五つ。俺の選択肢には『休憩』の文字はない。

 いいんだが。

 作業するのはいいんだが、少し気になるのは心が狭いのか。


 リーフの体調にあった疲労ともう一つ、空腹を解消するには料理を作ればいいいのだろうか。いくらゲーム内とは言え、子供を空腹のまま放置する趣味はない。

 『家事』を選択すると、ピコンと音が鳴ってウィンドウが閉じる。


 視界に赤で『サポートに従って部屋を掃除して下さい』という文字がオーバーラップする。あれ、『家事』って食事の用意じゃないのか。失敗したか。でも他に食事を作りそうな選択肢もなかったしな。

 手の中にほうきが現れたので、ガイドの矢印に従って床をはく。ずっと椅子に座ったままのリーフが見ているのが何か気まずい。


 部屋を一周はき終わるとポロンという音で文字が変わる。新しくオーバーラップしたのは『サポートに従って洗濯をして下さい』。

 視界が一旦フェードアウトして、回りの景色は外。井戸と、物干し台がある。手の中からは箒が消えて、代わりにおけが現れた。桶の中には何枚かの衣服が入っている。


 今度は洗濯か。

 井戸はロープを引っ張って桶で汲むタイプのものだった。ポンプ式ではない。一人で森の中に入って住処を作ったならそんなものか。その割には井戸の周りの石組なんかはきっちりとしていて、きれいな円を描いている。どうにもチグハグな気がする。ゲーム特有のご都合主義なのだろう。


 指示に従って、水を汲む。それを桶に入れると手で衣類を持って擦り合わせる。

 洗剤とかなくていいんだろうか。手洗いなんてしたことがないから、どういうのが正しいのか分からないまま、衣類を擦り合わせる。これで良いのか分からないまま続けていると、オーバーラップした文字が変化した。『洗濯物を干して下さい』。一応洗い終わったようだ。


 立ち上がると、すぐ後ろにリーフが立っているのに気づいた。

 怖いよ、なに黙って後ろにいるの。休憩って選択したでしょ、小屋の中で休んでてよ。それか上目遣いしてよ、洗濯物見てないで。


 リーフのことは置いておいて、桶から洗濯物を取り出しては、物干し竿に掛けていく。

 シャツ、ズボン、タオルとかけていくと小さな布が出て来る。三角の布。下着。ま、まあ洗濯ですからそういうものもあるでしょう。

 俺のにしては小さいような、リーフのだろうか。

 あまり考えないようにしながら物干し竿に掛けていく。すぐ後ろでリーフが見ている。気まずい。後ろ暗いことなど何もないのだが、なんか気まずい。

 全ての洗濯物を干し終えるとポロンという音がして文字が変わる。次に来たのは『サポートに従って料理を作って下さい』だった。


 フェードアウトの後、視界が開けるとまた小屋の中だった。俺はチェストのすぐ前に立っていて、リーフはまた椅子に座っている。

 収納棚チェストからは「ウサギ肉×2」「小麦×20」「キャベツ×10」「玉ねぎ×10」と書かれたウィンドウが出て来る。これを使って何か作ればいいんだろうか。自慢じゃないが、料理なんて知らないぞ。

 困ってるうちに目の前にもう一つウィンドウが現れる。『ウサギ肉のステーキ』『キャベツと玉ねぎのサラダ』『魔性のキュケオーン』。一つだけ名前が怪しいが、この三つの中から選ぶようだ。


 掃除や洗濯のようにサポートがあることを信じて『ウサギ肉のステーキ』を選択する。

 収納棚チェストが勝手に開き、中から出たきた「ウサギ肉×2」を手にして、ガイド矢印の指示するままにかまどに向かう。

 そこには置いた覚えもない鉄板が熱を上げ、その下にある竈では赤々とした火が燃え盛る。

 どっから出て来たこいつら。

 指示の示すままに二つのウサギ肉を鉄板に載せると、瞬時に油が弾ける音がする。同時に肉が焼ける匂いも。

 腹が減る匂いだ。

 手に皿とトングが現れて、表示される文字が変わる。指示のままに肉を裏返して、また少し待つと今度は皿に取れという。付け合わせも何もない『ウサギ肉のステーキ』の完成だ。


 皿を大きな丸太を半分に割って横向きに置いたようなテーブルに置いて、二人で食べる。

 ナイフとフォークは金属製で、あまり森の一軒家っぽくはないが、じゃあ木製のナイフで肉が切れるのかというと無理っぽい。

 そんなどうでもいいことを考えながら肉を食べる。リーフはナイフの使い道がよく分かってないようで、フォークで刺した肉の塊にそのままかぶりついている。


 懸命に食べてる姿は子供らしくてかわいい。成長したらナイフを使うようになるだろうか、それともテーブルマナーを学ぶような、教育的な行動選択が増えるんだろうか。

 二人の皿が空になったところでポポポーンと音がして「家事が終了しました」というアナウンスが流れた。

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