13話 幼馴染

 突然だが、俺には幼馴染が居る。

 容姿端麗、品行方正の完璧少女だった。

 それを表すかのように学校のコンクールでは賞をいくつも取り、ママ友に小さい頃から可愛いとよく言われていた。

 その姿は皆の憧れであり、高嶺の花的な存在であった。



 そしてその可愛さを失うことなく成長したのが横にいる。

 男の家に上がり込み制服でだらしなくクッションを下に寝っ転がりながらスマホをいじって時々起きたと思えば、ポッキーを口に運び再び寝っ転がる。


 小さい頃はだらしなくなく、寝っ転がりながら、スマホをいじりながらお菓子を食べたりする事は見たこと無かった。


 なのに、今時たらこの有様だ。

「真守お茶持ってきて〜」

「ハイハイ」

 まぁ今回は俺の家なのだから、仕方なく取りに行く。


「ほらよ」

 麦茶の入ったコップを机に置く。

「じゃあ今度は飲ませて」

「自分でそれくらいやれ!」

「えー。飲ませてくれたっていいじゃん」

 文句を言いながら起き上がり麦茶を飲む。

「……特別感ない」

「麦茶に特別感求めるな!」

「そうじゃなくて、お姫様みたいに飲ませてくれると思ってた」

「お姫様……?思いつかないから……例えば」

「口移しとか?」

「痴女なのか?麦茶の口移しとか俺の彼女は痴女なのか?それにそもそもお前のお姫様のイメージはおかしい!てかなんだ!?お姫様ってお前そういうのになりたかったのか?」


 遅れたが彼女ー松葉 楓と俺は付き合っている。付き合って半年程だが、まさかあの品行方正で生活態度良好だったやつがここまで酷い猫を被っているとは知らなかったが。


「口移しやってみようよ」

 冗談っぽく笑みを浮かべながら楓は言う。

「やらん」

「やろーよほら」

 そう言って麦茶を口に含む。

「う、やらない」

「ほはほらー」

 麦茶を口に含みながら近ずいてくる。

「わかったよ」

 そう言って顔を近ずける。

「ゴク」と楓の口に含まれた麦茶は飲み込まれた。

「え?じょ、冗談のつもりだったんだけど」

「ほら、やるんだろ?早く含んで」

 楓の顔が赤面し困り顔になっていく。

「ぅ……ぅぅ」

「ゴクゴク」

「む、麦茶がなくなってしまいましたね。てことは出来ませんねー(棒)」

 指先をつんつんし、汗をかきながら棒読みで言ってきた。

「恥ずかしいなら最初から挑発するな」

「うぅ……真守はこんな大胆じゃなかったはずなのに」

「俺はもうそんな変な誘惑には負けない大人だからね」

「大人!?まさか他の人とヤッタの?浮気!真守の浮気者!」

 襟元をつかみ涙目でグイグイしながら訴えてくる。

「してないよ。一種の表現的なものであって誰ともしてないから離してくれ」

「ほんとに?」

 手は止まったが離してはくれない。

「ほんとほんと。だから離してくれ」

 掴んでいる手をトントンとして離す様に促す。

「わかった。信じる」

「そうしてくれ」

 サッと手を離してくれ、「ふぅ」と呼吸する。



「そういえば、帰宅部に入るとか言ってたけどほんとに良いのか?」

 前回、俺と悠真は部活を作ろうとしたものの人数が足りず、迷っていたところ楓が「なら私入るよ」と言ってくれたのだが、本人の意志を尊重出来ているのか正直不安だ。

 楓がなにかの部活に入りたかったのにノリで言ってしまったとかはちょっと俺が嫌だ。


「前にも言ったでしょ?私は真守と一緒に居られるならなんでも良いの」

 少し呆れながらだけど少し照れながら楓は言った。

「なんか……その直球だな」

 直球な物言いにこっちが恥ずかしくなる。

「でもありがとう。楓が居なかったら部活も出来なかった訳だし」


「良いのよ。彼氏が困ってたら助ける。それが彼女でしょ?」

「そうかもな」

「あ!でもご褒美欲しいから今度なんかしてよ」

「なんかって曖昧だな……。まぁ良いよ!楽しみにしててね」

「うん!楽しみに待ってる」

 ご褒美が楽しみなのか、デートとかを期待しているのか分からないが、楓は春の快晴のような笑顔を浮かべていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る