第657話 挟撃する/瑠璃子

戦場が近づくと、脳の中心部分が痛み始める。もともと偏頭痛持ちではあるのだけど、この痛みはそんな生易しいものじゃなかった。魂の一部を鋭利な刃物で切り取られていくような不快感……しかし、私はクラスのみんなを元世界へと帰すまでは倒れることすらできない。この使命だけが私を南瑠璃子でいられるようにしてくれた。


「先生、攻撃されている味方基地から通信です。どうしますか」

「つないで頂戴」


短くそう答えると、すぐにスクリーンに司令官風の中年男性が映った。


「総帥直属の特務部隊が、こんな一般的な基地の援軍へと駆けつけてくれるとは光栄です」

「運が良いと思ってください。本来なら無視するつもりでした」

「それはそれは自分の強運を喜びましょう」

「それで敵軍の動きはどうなんですか」

「すでに第一防衛ラインは突破されてしまいました。さらに援軍も到着しているよで、勢いがとまりません」

「そうですか、敵の規模はどれくらいですか」

「魔道機だけでも二千機は超えています。こちらの戦力は防衛用の砲門があるとはいえ、八百機ほど、それほど長くは持ちません」

「そうですか、2千機くらいなら問題ありません。私たちに任せてください」


そう言うと基地の司令官は驚いた表情をした。どうやら私たちの戦力を数だけで見ているようだ。数十機の戦力が二千機の敵を問題ないと言える根拠が見つからなかったみたいだ。


基地の南に到着すると、自分を含め、全機に出撃を命令した。そして追加の指示としてこう言う。


「この戦場にはレイナさんがいるはずです。戦いの勝利は二の次、一番の目的はレイナさんを救うことにあります。レイナさんの機体には肩に二匹の蝶の模様が描かれていると情報があります。この機体を見かけたら私に報告してください」


みんなクラスメイトであるレイナさんの話を聞いて、少しざわつく。


「レイナと戦うことになったらどうしよう……」

「レイナちゃんに会えるかもしれないのか! 戦場での感動的な再会なんて、もしかして、俺に春がくるのか」

「お前に微塵もチャンスなんてあるわけないだろ」

「このまま、全員揃ったら日本に帰れるんだよな、俺たち」

「もう少しだ、もう少しで元の生活に戻れるんだよ」


みんなにはクラスの全員が揃ったら日本に帰れると伝えている。正確にはラドルの意思を実行する見返りなのだけど、そんな気苦労をするのは私だけでいいと考えていた。


「必ず全員揃って帰りましょう、その為に死んではダメですよ」


私も含め、全員ですぐに出撃する。この部隊にはクラスのメンバー以外にも人員がいるけど、この戦いにはクラスのライダーだけで挑むことにした。結束を固める意味もあるけど、レイナさんと変な接触にならないようにとの配慮もあった。


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