第654話 切り札/ジャン

懸念していた敵魔道機大隊の接近はアーサー隊とエミナ隊のおかげで防ぐことができた。それにより、進行方向が随分と進みやすくなる。本隊は警戒しながらも急ぎ本格的に移動を開始する。


随分と楽に突破できる状況になったとはいえ、それでも多数の敵が本隊を狙い動いていた。組織的な妨害はなくとも、無数の少数部隊による波状攻撃は続き、旗艦に迫る敵もいた。しかし、そんな敵たちも、本隊を護衛しているロルゴ隊やジュネージュ隊、ミルティー隊に撃破されていた。



今の無双鉄騎団には、ヤマトやフガク以外にも大型艦が多数存在している。ほとんどの艦が巨体に似合わず、高速で航行できる万能艦であったが、中には装甲と火力に特化した戦闘艦もいくつかあった。それを無人化して、この包囲脱出作戦に使うことになった。


戦闘艦を無人化して、自動迎撃システムが付けられた。それは後方から追いかけてくる敵軍に向けて抜群の効果を発揮する。何も知らない敵軍は、残った戦闘艦を蹂躙しようと攻撃を開始する。そんな戦闘艦に近づいた敵に向けて、熱と爆発でダメージを与えるイフリート火砲が襲い掛かる。ほとんどの魔導機は、一撃で葬りさられる。大型ライドキャリアでも、数発で撃沈され、その残骸を戦場にさらした。


無人の戦闘艦は立派に殿の代役を務めてくれている。それにより後方からの追撃してくる敵軍に対しては無視していいレベルで気にしなくて良さそうだ。


進行方向の敵はうちの誇る機動部隊が対応し、後方は無人戦闘艦が守る。それに

より前方後方は大丈夫そうだが、側面からの強襲には少し対応が遅れていた。それでもファルマ隊の上空からの攻撃や、ロルゴ隊の対応により辛うじて迎撃できていたが、艦が攻撃されてゆれる状況も出てきた。


「ここを踏ん張れば、もう少しで抜けれそうだな」

「北西の部隊を突破できれば、包囲からは逃れられそうです」

「あれか……重装魔道機が多そうだな」


「対応が遅れれば、側面からの攻撃で打撃を受ける可能性があります。早急に排除するのが安全かと」


耐久力だけはありそうな敵部隊も見て少し悩んだ。移動しながらの艦砲射撃は命中率は低くて、前方に展開している味方の機動部隊も危険になるし、機動部隊に排除を指示するにしても、他も対応している部隊を招集するには時間がかかるし、そもそも機動部隊にとっては重装魔道機部隊は相性が悪い。仕方ない、ここは少し足は止まるが高火力の手札を使うか……。


「マウユのアルヴィオンを出撃させる。マウユ出れるか!?」


あの巨体は強行突破にはちょっと邪魔になることもあり、マウユのアルヴィオンは大型輸送艦に格納していた。アルヴィオンの殲滅スピードと足止めを天秤にかけたが、やや殲滅スピードの方に傾いた感じだ。


「出れるよ! 私に任せて!」


マウユの返事を待つ前に、格納庫のハッチは開かれていた。輸送艦と大差ないほどの巨体がゆっくりと姿を現してきた。

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