第552話 不穏な気配

マルヌダークはかなり広かった。この地のどこかにアムリア王国の人たちがいるはずだけど、すぐに見つけるのは難しかった。


「必ず痕跡が残っているはずだ。小動物の一つも見逃すな」


ある程度の人工物を計測する機器はこの世界にも存在する。しかし、広い範囲を調べられるほど便利なものではなく、せいぜい一キロ範囲内を計測するくらいの性能しかない。見晴らしのよいこの場所だと、それくらいだったら目視で発見できる距離なので、あまり役に立たない。


「ふむ、高性能の計測器の開発もした方がいいかもね」

ラフシャルが何かを考え込みながらそう言う。


「おっ、いいね。すぐ作れるのか?」

「すぐとはどれくらいの期間を想定しているかわからないけど、今回の捜索には間違いなく間に合わないよ」

「そか、ざんねん……」


「ナナミ、もう外見るの飽きたよ」

「私も、本を見てる方がいいかも」


一日中、代わり映えしない景色を見ていたこともあり、ナナミとファルマは完全に飽きているようだ。


「ちょっと、あれ見て、何か落ちてる」

同じように外を監視していた渚が声をあげる。よく見ると、何かが荒野に転がる岩の影に落ちているように見えた。すぐに回収して調べると、アムリア王国製の製品だった。


「ようやく見つけたな、後は痕跡を追っていけばたどり着けるはずだ」


一つ見つければ周囲を探して次の痕跡が見つけやすくなる、さらにいくつかの痕跡を見つければ、向かっている方向が予測できる。後はそれを辿っていけば、やがては追いつけるはずだ。


痕跡を追っていると、フェリの疑似体の様子が変わって来た。気になり声をかけると、意味ありげな返答があった。


「やはり運命は、時の機会を見逃してくれないようですね……彼らは今、この時代に目覚める定めにあるのかもしれません」

「どういう意味?」

「肉体を失っても、女の勘というものは失わないってことです。どうも不穏な空気を感じます」


よくわからないけど、フェリは何か嫌な予感がしているようだ。今、向かっている方角になにか関係があるのかもしれない。



そんなフェリの予感だが、どうやら当たっていたようだ。警戒中のオペレーターが異変を告げる。


「前方、3キロ地点にて戦闘を確認、アムリア王国の旗艦と思われるライドキャリアもいるようです」

「なんだと、戦闘の規模は!?」

「数十機ほとの小規模戦闘のようです」


「勇太、出撃準備だ! 先行して現場へ向かえ!」

「わかった!」


すぐにアルレオ弐に乗りこもうとする。しかし、すぐに状況は変わった。オペレーターの声が俺の足を止める。


「ちょっと待ってください。どうやら戦闘が終わったようです。戦闘の停止信号が出されました」

「アムリア王国のライドキャリアはどうなった!」

「健在です。どうやらアムリア王国側が勝ったようですね」


それを聞いて胸をなでおろす。安心してるところに、ジャンが怪訝な顔で呟く。

「妙だな……逃げ回っていたくらいだから戦力では追手に劣っていただろうに……」


確かにそう言われれば変だけど、まあ、一か八かで戦ったら勝てたんだろう。俺はあまりに気にしていなかった。

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