第532話 終わりの始まり/結衣
ラーシア王国攻略に失敗した私たち中央方面軍は、帝都に戻っていた。そこで衝撃の事実が判明する。侵攻した三軍の全てが敗北して、撤退してきていたのだ。大々的に侵攻を開始して、それが失敗したことで皇帝やラフシャルが激怒していると思ったのだけど、実際には違っていた。
「面白い! 君たちなら楽に勝ってくると思っていたが、まさか敗北するとは傑作だ」
満面の笑みでラフシャルはそう言う。そこに怒りなど微塵もなかった。
「申し訳ありません……あれだけの戦力を頂きながら不甲斐ない結果となり……」
「いや、ユウト、仕方ないことだ。聞いた話では相手もニトロルーディアで強化されていたそうじゃないか、しかも大連合の大軍で待ち伏せされていてはどうすることもできないだろう。それどころか想定していない状況を即座に察し、早々に撤退を決めたのは見事と言えるだろ」
ユウトさんはラフシャルのその言葉が予想外だったのか驚いているようだった。
「結衣も素晴らしい判断だったそうだな。敵は最強のラーシア王国で、しかも強力なライダーが複数いたそうだが互角に戦い、そして勝ち目がないとみると撤退の判断をして、被害を最小限に抑えてそれを為しえたのは見事であった」
褒められているようだけど、その言葉の全てが気持ち悪かった。これなら責められた方がマシだ。
「クルスとレイナの両名も不運だったようだな、敵にとんでもない化け物がいたと報告を聞いている。それでは負けてもしかたないな」
「はっ、私とレイナ二人がかりでも勝つことができないほどの強者で、恥ずかしながら逃げ帰ってまいりました」
「いやいや、お前たちは皆悪くない。悪いのはこの私と皇帝だ。どのような敵にも対応できる戦力を与えてやれなかった罪は重い。そこでエリシア帝国の成人の全国民にニトロルーディアを施すことに決めた。帝国成人国民二千万人、無事に強化されるのは三分の一ほどだろうが、それで強力な兵、700万人ほどが生まれる。魔導機の発掘と生産も強化すれば、最強の魔導機戦力が誕生するだろう」
何を言っているのだろう、一瞬意味がわからなかった。とんでもない発言をしているのだけは理解したが、驚きすぎて言葉がでなかった。
「お待ちください! 失敗する想定の残りの三分の二の国民はどうなるのですか!?」
「失敗作がどうなるかなど知ったことではない。犠牲などいくら増えても構いはしない。大事なのは結果がどうなるかだ。これより、エリシア帝国は強力な強兵政策を実施することを宣言する」
そんなことすれば国がむちゃくちゃになるのは目に見えている。しかし、そんな事は気にしている素振りもなかった。もしかしてラフシャルはエリシア帝国を潰そうとしているのではないか、そう思わずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます